「仕事には慣れてきたはずなのに、なぜか気力がわかない」「休日に休んでも、月曜日が来るのが憂鬱でたまらない」
5月に入った頃、そんな感覚を覚える社会人は少なくありません。
いわゆる「5月病」です。正式な病名ではありませんが、新年度から1〜2ヶ月が経った頃に、心身の不調として現れやすい状態を指します。「なぜこのタイミングなのか」「自分だけなのか」
そう感じている方に向けて、この記事では5月病が社会人に起きやすい背景と、その後どう向き合うかについて整理します。
なお、5月病の背景にある気候や自律神経の変化については、当センターの別のコラム「春に自律神経が崩れやすい3つの理由」で詳しく解説しています。この記事では、社会人特有の職場環境がなぜ5月病を引き起こしやすいのか、という側面に絞ってお伝えします。
4月は「緊張」でなんとか乗り切れてしまう
5月病が5月に出やすい理由は、4月の構造にあります。入社・転職・異動など新しい環境が始まる4月は、適応しようとする緊張感がエネルギーとして働きやすくなります。「なんとかしなければ」という気持ちが体を動かし、多少しんどくても乗り越えられてしまいます。
ところが1〜2ヶ月が経つ頃、その緊張が緩みはじめます。慣れてきたように見えて、実は蓄積していた疲労が表面に出てくる。「さあここからが本番」というタイミングで心身が限界に近いサインを出し始めるのが、5月病によく見られるパターンのひとつです。
なぜ社会人の職場環境は、これほど消耗させるのか
5月病は学生にも起こりますが、社会人は職場固有の消耗要因が重なりやすい面があります。
職場の人間関係の構築は、友人関係とまったく違う
友人関係は、気の合う人と自然に距離が縮まっていくものです。しかし職場では、合う・合わないに関わらず、複数の人と協力して仕事を進めなければなりません。誰がどんな役割を担っているか、どんな言葉遣いが求められるか、場のルールはどこにあるか。こうした情報を常に読み取りながら振る舞い続けることは、想像以上に神経を消耗させることがあります。
特に、コミュニケーションへの不安を感じやすい方や、「うまくやれているか」が気になりやすい方にとっては、この負荷はさらに大きくなります。会話のひとつひとつが疲弊のタネになり、4月を通じてじわじわと重なることがあります。
「描いていた仕事」と「実際の仕事」のギャップ
入社・転職前に抱いていたイメージと、実際に働いてみた現実がずれていた。この感覚が、5月頃に一気に押し寄せることがあります。
やりがいを感じられる場面が少ない、強みを活かせない仕事が多い、思ったより雑務ばかりだった。こうした「小さなズレ」が毎日積み重なると「自分はここに向いていないのではないか」「このまま続けていけるのだろうか」という考えに発展しやすくなります。
複数の仕事が同時に押し寄せる状況
新しい職場では、業務を覚えながら慣れないシステムやルールも把握しながら、複数のタスクを並行させる場面が続きます。一つひとつのタスクが難しくなくても、同時に重なることで「処理しきれない」という感覚が生まれます。
物事を順番に丁寧に進めたいタイプの方やマルチタスクに苦手感がある方にとって、この状況は特に消耗しやすい環境です。「うまくこなせない自分」が積み重なり、じわじわと自信を削いでいくこともあります。
5月病のサイン。こんな状態が続いていませんか
5月病は「なんとなく不調」から始まることが多く、気づきにくいのが特徴です。以下の変化が重なっている場合、心身が限界に近づいているサインかもしれません。
気持ち・思考の変化
- 月曜日・仕事の前日になると、気持ちが沈む
- 「自分はダメだ」「ここに向いていない」という考えが繰り返し浮かぶ
- 失敗したとき、事実以上に大きく落ち込む
- 将来のことを考えると、漠然とした不安が消えない
体の変化
- 朝、体が重くて起き上がるのが億劫
- 食欲の変化(食べられない、または食べすぎる)
- 頭痛・胃の不調・動悸が続く
- 休日に休んでも、疲れが抜けた感じがしない
行動の変化
- 以前は楽しめていたことに、興味が向かなくなった
- 人への連絡を返すのが面倒になってきた
- 仕事が終わっても、頭の中で仕事のことが続く
5月病が長引く背景にある「考え方のくせ」
5月病の症状が出たとき、「気合いで乗り越えよう」と自分を奮い立たせようとする方は多いですが、それがうまくいかないのには理由があります。
認知行動療法では、ある出来事に直面したとき、私たちの中に自動的に浮かぶ考え方(自動思考)が感情や行動に大きく影響すると考えます。「会議でうまく発言できなかった」という出来事でも、「次はこうしてみよう」と受け取る人もいれば「やっぱり自分はダメだ」と受け取る人もいます。
ストレスが続く時期には自動思考がネガティブな方向に傾きやすく、「失敗した=仕事ができない人間だ」というように、事実よりも大きな結論に飛びつきやすくなります。こうした考え方のパターンが症状を深めることがあります。「今日何があって、そのとき自分はどんなことを考えていたか」を短くメモするだけでも、自分の反応のパターンが見えてきます。
一人で「考え方を変えよう」とするのが難しい理由
「じゃあ前向きに考えればいい」
そう思って試みたけれど、うまくいかなかった経験がある方も多いはずです。
人は自分の考え方のくせを、自分では当たり前すぎて気づきにくいものです。感情が強いときほど冷静に自分の思考を観察することは難しく、「もうここはやっていけない」という気持ちが強いときに「自分の受け取り方が影響しているかもしれない」と考えることは、なかなかできません。
認知行動療法によるカウンセリングでは、こうした「自分では気づきにくいパターン」を専門家と一緒に整理していきます。「うまく話せなかった場面」を振り返ると、「また失敗した」という出来事への反応と「自分はいつもこうだ、向いていない」という自分全体への否定とが混ざり合っていることがあります。この二つを分けて見られるようになることが、過剰な自己批判から抜け出す第一歩になりえます。
一時的なもの?相談すべき?判断の目安
5月病で悩む多くの方が「一時的なものだろうか、相談すべき状態なのだろうか」と迷います。専門家の見解をふまえると、次の2つの視点で整理できます。
休日に楽しめるなら、まず様子を見てもよいかもしれない
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、適応障害について「ストレスの原因から離れると症状が軽快しやすい」と説明されています。5月病の多くは同様の性質を持ち、症状が比較的軽い場合は環境に慣れるにしたがって落ち着いていくことがあります。「月曜日が憂鬱だが休日は楽しめる」「疲れているが日常生活は送れている」という段階であれば、まずは休息を優先しながら様子を見ることも選択肢のひとつです。
これが2週間続くなら、一人で抱えるより相談したほうがいい
一方、以下のような状態が見られる場合は、専門家に相談することが回復への近道と考えられます。適応障害の診断基準(DSM-5)では「日常生活または社会生活に著しい支障をきたしていること」が要件とされており、こうした状態には専門的な関わりが役立つことがあります。
- 休日も楽しめない、何をしても気分が上がらない
- 眠れない、または眠りすぎる状態が続いている
- 職場のことを考えると体の症状(頭痛・吐き気・動悸など)が出る
- こうした状態が数週間以上続いている
厚生労働省の「こころの耳」でも、5月病について「何も楽しめない、眠れない状態が2週間以上続く場合は医療的なケアが必要な可能性が高い」としています。5月病は正式な医学用語ではなく、受診すると適応反応症(適応障害)や抑うつ状態と診断されることがあります。症状が続く場合は専門家の判断を仰ぐことが大切です。
適応反応症(適応障害)のストレス耐性を高めるためには認知行動療法が有効であることが厚生労働省の研究でも示されており、ストレスへの対処の仕方そのものを変えていくアプローチが再発防止にもつながると考えられています。
まとめ
5月病は、4月を一生懸命乗り越えてきたからこそ起きやすいものです。あなたが弱いから生じているのではありません。
「一時的なものかもしれない」と感じながらも、休日も気持ちが戻らない・体の不調が続くといった状態があるなら、一人で抱え込まず相談することを選択肢に入れてください。
もし「自分の状態を誰かと整理したい」という気持ちがあれば、当センターへのご相談をご検討ください。公認心理師が認知行動療法を中心に、一人ひとりの状況に合わせたカウンセリングを提供しています。初回は無料ですので、お気軽にご予約ください。
引用元・参考文献
- 認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究|厚生労働科学研究成果データベース
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/24198 - 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター「認知行動療法(CBT)とは」
https://cbt.ncnp.go.jp/contents/about.php - うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf


