
うつ病になると、日常生活の中で「やらなければいけないことが進まない」「気づいたら時間ばかりが過ぎてしまう」といった困りごとが増えることがあります。こうした背景には、「実行機能(Executive Function)」と呼ばれる能力の変化が関係していると考えられています。
実行機能とは何か
実行機能とは、目標を立て、それに向けて行動を計画し、注意を向け続け、必要に応じて柔軟に切り替えるといった、一連の思考と行動をまとめる能力のことです。具体的には、作業を始める段取りをつけたり、複数の作業を整理したり、集中を保ったりする力が含まれます。
たとえば、仕事のメールに返信しようと思ってパソコンを開いたのに、別の業務に気を取られて返信を忘れてしまったり、作業の優先順位をつけるのに時間がかかったりするのも、実行機能がうまく働いていない状態の一例です。
うつ病と実行機能の関係
うつ病では、抑うつ気分や悲観的な気持ちといった感情面の症状が注目されがちですが、実行機能の低下もよく見られる特徴の一つです。研究でも、うつ病の人は実行機能を必要とする課題の成績が下がる傾向があると報告されています。
この背景には、気分の落ち込みによる注意の集中のしづらさ、思考のまとまりにくさ、判断に時間がかかるといった影響があると考えられます。結果として、仕事や家事、対人関係など、日常生活全般に支障が出やすくなります。
職場での影響
職場では、複数の業務を並行して進める、期限を守る、急な予定変更に対応するといった場面が多くあります。これらはいずれも実行機能を必要とする行動です。そのため、うつ病によって実行機能が低下すると、ミスが増えたり、仕事の進行が遅れたり、同僚との連携がうまくいかなくなったりすることがあります。
本人の努力や性格の問題と誤解されがちですが、これは病気の影響によるものであり、本人の意志だけでは解決できないことも多いのが実際です。
向き合い方と工夫
実行機能の低下がある場合は、気合いや根性で立ち向かうのではなく、仕組みや環境を整えることが重要です。以下のような工夫が役立つことがあります。
- 一度に多くのことを抱え込まず、タスクを小さな単位に分ける
- やることを書き出して、優先順位を明確にする
- 予定を頭の中で覚えようとせず、カレンダーやメモアプリなどを活用する
- 作業の切り替えが難しいときは、アラームやリマインダーを活用して区切りを作る
こうしたサポートによって、実行機能にかかる負荷を減らし、生活や仕事のペースを取り戻しやすくなります。
まとめ
実行機能は、日常生活のあらゆる場面で必要とされる能力です。うつ病ではこの機能が低下することがあり、その結果として、行動の遅れや集中困難といった問題が生じやすくなります。これは怠けや努力不足ではなく、病気による変化として理解することが重要です。
仕組みや環境を整えることで、実行機能の負担を軽減し、生活のしづらさを和らげることができます。
必要な時は専門家に相談してください。 実行機能の低下や日常生活の困りごとが続いている場合は、一人で抱え込まずに医療機関や専門家に相談することが大切です。専門的な支援を受けることで、症状の改善や生活の再構築につながる可能性があります。