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記憶力とうつはどう関係するか?

記憶力とうつはどう関係するか?

うつ病になると、気分の落ち込みや意欲の低下といった感情面の症状に目が向きがちですが、「記憶力の低下」もよく見られる特徴のひとつです。たとえば、人との約束を忘れてしまったり、昨日話した内容が思い出せなかったり、仕事の細かい手順がうまく頭に入ってこなかったりすることがあります。こうした記憶力の変化は、うつ病の一側面として知られており、日常生活や仕事に大きな影響を与えることがあります。

うつ病と記憶の関係

記憶にはいくつかの種類があります。たとえば、日常の出来事を覚えておくエピソード記憶、仕事や学習で必要な知識を蓄える意味記憶、短期間に情報を保持して使う作業記憶(ワーキングメモリ)などです。うつ病では、とくに作業記憶やエピソード記憶に関する困難が報告されています。

抑うつ状態にあると、注意の集中が難しくなり、情報を正確に覚える段階でつまずきやすくなります。その結果、覚えるべき情報がそもそも頭に入っていなかったり、思い出そうとしてもなかなか出てこなかったりすることがあります。

また、ネガティブな思考が頭の中を占めている状態では、新しい情報への注意が向きにくくなり、記憶の整理や保持がうまくいかないこともあります。

職場や日常生活での影響

記憶力の低下は、日常生活や職場でさまざまな形で現れます。たとえば、会議の内容を覚えられない、指示された作業手順が頭に残らない、同じ質問を何度もしてしまうといったことが起こることがあります。

こうした変化は本人の努力不足や性格の問題と捉えられがちですが、実際にはうつ病による認知機能の変化が背景にある場合が多くあります。本人にとっても「なぜこんなに忘れてしまうのか」と戸惑いや焦りを感じやすい部分でもあります。

記憶力の低下が起こる背景

うつ病で記憶力が低下する背景には、いくつかの要因が考えられています。

ひとつは注意力の低下です。注意が十分に向けられないと、情報を覚える段階で取りこぼしが生じ、結果的に記憶に残らなくなります。

もうひとつは、思考や感情がネガティブな内容に偏ることによって、頭の中が不安や否定的な考えで占められ、新しい情報を処理する余裕がなくなることです。

さらに、睡眠の質の低下も記憶力に影響を与えることが知られています。うつ病では入眠困難や中途覚醒などの睡眠障害がよく見られ、十分な睡眠がとれない状態が続くと、記憶の定着や整理のプロセスに支障が出やすくなります。

向き合い方と工夫

うつ病に伴う記憶力の変化に対応するためには、無理に覚えようとするのではなく、環境や仕組みを工夫することが有効です。

  • 重要なことは書き留める習慣をつける
  • 一度に多くの情報を処理しようとせず、小分けにする
  • 繰り返し確認できるようにメモやチェックリストを活用する
  • 口頭の指示は、可能であればメールや文書でも残してもらう

こうした工夫は、「記憶力を鍛える」というよりも、覚える負担を減らし、取りこぼしを防ぐための現実的な対処法です。

まとめ

うつ病では、気分や思考だけでなく、記憶力にも変化が生じることがあります。注意力や睡眠、思考の偏りなどが影響し、記憶の保持や思い出しに困難を感じる人も少なくありません。

こうした変化は病気の一部であり、努力不足ではありません。環境や方法を工夫することで、生活や仕事への影響を和らげることができます。

必要な時は専門家に相談してください。 記憶力の低下や仕事・生活での支障が続く場合は、一人で抱え込まずに医療機関や専門家に相談することが大切です。専門的な支援によって、症状の改善や生活上の工夫の仕方が見えてくることがあります。


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