「なんだか最近、小さなことでもストレスが溜まってしまうな」
「あの人はいつも穏やかそうなのに、どうして私はこんなに傷つきやすいんだろう……」
生活や仕事のなかでのストレスで心が疲れているとき、ふと周りと自分を比べて落ち込んでしまうことはありませんか?
私たちの周りにいる「ストレスに強そうな人」は、まるで傷つかない無敵のハートを持っていて、最初からストレスを跳ね返しているように見えるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。
実は、もともとストレスに強そうに見える人でも、心の中では私たちと同じように「痛いな」「つらいな」と感じているのかもしれません。ストレスに強いと言われている人は、決して我慢強い超人というわけではないのではないでしょうか。「ストレスに強そうな人」は、傷ついた自分の心を「優しく受け止めて」、そこから受け流すのがちょっと上手な人とも考えられそうです。
では、そんな「ストレスに強い人」たちは、一体どんなコツを使って上手にストレスを受け流しているのでしょう。
同じストレスを受けても、感じ方や対処の仕方は人それぞれです。心理学では、このストレスへの対処法のことを「コーピング(Coping)」と呼びます。今回は、このコーピングという考え方に注目して、復職や日々の生活、仕事の中で今日からできる、「ストレスに強くなるコツ」をお話ししていきます。
「コーピング」とは?
心理学の世界で使われる「コーピング」という言葉。少し難しく聞こえるかもしれませんが、一言でいうと「自分の心を守るための工夫」のことです。
厚生労働省では、コーピングは「ストレスに対処する、切り抜ける」という意味で定義されています。私たちは日々、仕事のプレッシャーや人間関係、あるいは復職への焦りなど、さまざまなストレスに直面します。それらのストレスに対して、自分で自分の心のバランスを取ろうとする行動や考えがコーピングです。
ここで、ストレスを「上空から飛んでくるボール」に例えてみましょう。
どんなにストレスに強いと言われる人でも、硬いボールがまともに当たれば同じように痛いですし、怪我もします。しかし、ストレスに強いと言われる人は、「あ、ボールが来たな」といち早く気付いて、柔らかいクッションを構えて受け止めたり、ちょっと横にひらりと体をかわしたりする、「対処のバリエーション(レパートリー)」が非常に豊富なのです。
状況に合わせて受け止め方や対処を工夫できるからこそ、彼らの心は格段に折れにくくなります。つまり、ストレスに強い人というのは、生まれつき無敵のハートを持っているわけではありません。傷ついたときに自分を救ってくれる「対処の引き出し」をたくさん持っており、その場に応じて使い分けをしている人なのです。
心の引き出しを整理する「2つのアプローチ」
心理学において、コーピングは大きく分けると「問題焦点型」と「情動焦点型」の2つに分類されます。実際のコーピングはきれいに2つに分かれるものではありませんが、分けることで理解が進めやすくなります。それぞれの引き出しがどのようなものか、具体的なケースと一緒に見ていきましょう。
① 問題焦点型コーピング
ストレスの原因(ストレッサー)そのものに、自分の力で「少しだけ」働きかけて解決を図る方法です。主に、自分の行動や周りの環境を少し変えられそうな場面で効果を発揮します。
ケース1【業務量の多さ】
「最近業務量が多くて疲れた…でもきっとどうにもならないし」
対処の工夫
周囲に小さく頼る・相談する
ひとりで全てを抱え込まず、上司・同僚などに「ここが追いついていないので、見直しの相談をさせてほしい」「優先順位の整理を一緒に手伝ってほしい」と伝えてみる。
タスクを細分化して行動のハードルを下げる
「終わらない全体像」を見て圧倒されるのを防ぐため、仕事を「5分で終わる単位」まで分解してみます。例えば、「まずメールを1通だけ返す」「書類を1ページだけ読む」と細分化できるかも。
優先順位をつけて調整する
「今すぐやらなくてもよい仕事」「他人に任せられる仕事」を分けてみる方法です。分けることで、自分の手元から減らせそうなタスク、期限を延ばせそうなタスクがみえてくるかもしれません。
② 情動焦点型コーピング
自分の体調の波や、他人の言動など、「すぐには変えられない現実」に対して、心をリフレッシュさせて痛みを和らげようとする方法です。ストレスに対する捉え方の工夫がここに含まれます。
ケース2【どうしても気分が上がらない日】
「今日は朝からどうしても気分が落ち込んで、何も手につかない。周りのみんなは前進しているように見えるのに、どうして自分だけ…」
対処の工夫
自分の状態を受け入れる
「エネルギーを充電するタイミングなんだ」などと今の状態を善悪判断をせずにそのまま認めてみる。
こころをなだめる行動をとる
お気に入りの音楽を聴いたり、温かい飲み物を飲んだりして、傷ついた自分の気持ちをそっとなだめてあげる。
大切なのは、状況に合わせた「柔軟な使い分け」
ストレスに強いと言われる人は、この「問題焦点型」と「情動焦点型」の2つの引き出しを、状況に合わせて上手に使い分けています。
心理学の研究でも、「対処の引き出し(コーピング・レパートリー)が豊富で、それらを柔軟に使い分けられる人ほど、メンタルの不調や落ち込みを長引かせにくい」ということが分かっています。
しかし、ここで一つ注意したいポイントがあります。それは、「変えられない問題に対して、問題焦点型(解決しようとするアプローチ)を使い続けると、心が疲弊してしまう」ということです。
たとえば、苦手な上司の性格や、過去の失敗、その日の天候や体調などは、自分の努力だけではすぐには変えられません。変えられないものに対して「どうにかしなきゃ」とぶつかっていくのは、壁に向かって全力疾走するようなものです。
そんなときは、無理に問題を解決しようとする(問題焦点型)のではなく、「今は仕方がない」と受け流し、心のケア(情動焦点型)に切り替えることも大切です。この「切り替え」の柔軟さこそが、ストレスにしなやかに対応する力になります。
最初からこれらすべてを完璧に使いこなす必要はまったくありません。まずは「自分にはどんな引き出しが合いそうかな?」と、眺めてみるだけで十分です。
「コーピングリスト」を作ってみよう
本当に心が疲れきっているときや、強い不安に襲われているときというのは、脳のエネルギーが低下しているため、「何をしたら自分が元気になるか」さえ思いつかなくなってしまうものです。
だからこそ、心が比較的穏やかなときや、少しずつエネルギーが戻ってきたタイミングで、「対処の引き出し(コーピングリスト)」を用意しておくのがおすすめです。
リストを作る際は、以下のように「必要な時間」や「手軽さ」で小分けにしておくと、いざというときに使いやすくなります。
【時間・場面別のコーピング例】
「3分」でその場でできること
- 椅子に深く腰掛け、ゆっくり深呼吸を3回する
- お気に入りのハンドクリームを塗って、香りを深く吸い込む
- 温かいお茶を一口、ゆっくり味わって飲む
- 「よくやってるよ」と心の中で自分に声をかける
「1時間」でできること
- スマホの電源を切り、静かなカフェでぼーっと過ごす
- お気に入りの入浴剤を入れて、お風呂にゆっくり浸かる
- ノートに今のモヤモヤする感情を思いつくまま書き殴る
- 好きな音楽を、何もせずにじっくり聴く
「お休みの日」にできること
- 時間を気にせず、お布団の中で心ゆくまでゴロゴロする
- 観たかった映画やアニメを一気に見る
- 自然の多い公園に行って、木々や空を眺めながら散歩する
- 自分のためだけに、少し手が込んだ美味しいご飯を作る
挫折しない!リストを作るときの「3つのポイント」
コーピングリストを作るとき、「素晴らしいリストを作らなければ」と力んでしまいがちです。しかし、それではリスト作り自体がストレスになってしまいます。以下のポイントを意識して、気楽に作ってみるのがオススメです。
「質」より「量」を意識する
心理学の研究では、コーピングのレパートリー(種類)を多様に持っていることがストレス低減に有効とされています。選択肢が多いほど「これを受け流すには、あの方法を試そう」と自分の状況をコントロールしている感覚を取り戻せるからです。「空を見上げる」といった、一瞬でできる小さなことで構いません。状況に応じて使いわけるためにも、まずは数を増やしてみましょう。
「お金がかからない」「一人でできる」ことを多めにする
「旅行に行く」「友達と豪華なディナーをする」といったコーピングも素敵ですが、お金や時間、他人の都合が必要なものばかりだと、本当に辛いときにすぐに実行が難しい場合もあるかと思います。「一人で、すぐ、無料でできること」をリストの土台にしましょう。
まずは「3つだけ」書き出してみる
最初からたくさん書こうとすると大変です。まずは今日寝る前に、ノートやスマホのメモ帳に「これをしたら、自分の心がちょっとだけホッとしたな」と思えることを3つだけ、書き出してみませんか?
ゆっくり、あなたのペースで引き出しを増やそう
復職への道のりや、心の回復のプロセスは、決して一本道ではありません。調子が良い日もあれば、どうしても後ろ向きになってしまう日もあります。
そんなときは、「どうしてダメなんだろう」と自分を責めるのを一回お休みにして、あなたのコーピングリストを開いてみてください。
あなたは普段、どんなことで自分をホッとさせてあげていますか? 誰かのためではなく、あなた自身のために。小さな引き出しをひとつずつ、あなたのペースで増やしていきましょう。
引用元・参考文献
- 加藤司. (2001). コーピングの柔軟性と抑うつ傾向との関係. 心理学研究, 72(1), 57-63.
https://doi.org/10.4992/jjpsy.72.57 - 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(ストレス対処).厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/nowhow/nh004/ - 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(ストレスコーピング).厚生労働省
https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1614/
コラムのご利用にあたって
当サイトのコラムは、こころの不調や働き方に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の診断や治療方針を示すものではありません。
ここケアセンターは医療機関ではないため、診断や薬の処方は行っていません。強い落ち込み、不眠、食欲低下、希死念慮、自傷の不安、仕事や生活への大きな支障が続く場合には、主治医や心療内科・精神科などの医療機関にご相談ください。


