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仕事の説明は分かったのにできないのはなぜ? 自閉スペクトラム症(ASD)の特性から考える「実行」のヒント

仕事の説明は分かったのにできないのはなぜ? 自閉スペクトラム症(ASD)の特性から考える「実行」のヒント

「仕事の説明を聞いたときは、分かったと思ったのに、いざ一人でやろうとするとできない」 

「ちゃんと聞いていたはずなのに、途中で何をすればいいのか分からなくなる」 

「できなかったことで、自分は仕事ができない人なのではないかと感じてしまう」 

このようなお悩みはありませんか。 

仕事の指示を聞いて、その場では「分かりました」と答えられても、実際に仕事を始めるとうまく進められないことがあります。 

そんなとき、「本当は理解できていなかったのではないか」「自分は仕事ができないのではないか」と、自分を責めてしまう方もいるかもしれません。 

しかし、心理師の立場から見ると、「説明を理解すること」と「理解した内容をもとに仕事を進めること」は、同じではありません。

今回は、「分かったのにできない」という困りごとを、理解と実行を分けて考えながら整理してみましょう。  

指示が「分かった」のあとにつまずきやすい理由

たとえば、上司から次のような指示を受けたとします。 

「この資料を確認して、必要なところを修正して、今日中に担当者へ送ってください」 

言葉の意味そのものは理解できたとしても、実際に仕事を始めるには、さらに考えることがあります。 

  • どの資料を確認するのか 
  • 「必要なところ」とはどこなのか 
  • どの程度まで修正するのか 
  • 「今日中」とは何時までなのか 
  • 誰に送るのか 
  • 送る前に確認してもらう必要があるのか など 

このように仕事では、指示を理解したあとに、やることを具体的にしたり、順番を決めたり、途中で判断したりする必要があります。 

政府広報オンラインに掲載された記事によれば、自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方は、あいまいな指示に対する苦手さを持つ傾向にあります。そのため、厚労省でも、職場における配慮の一例として、スモールステップや具体的な説明が推奨されています。 

仕事を進める流れを簡単にすると、 

  1. 指示を聞く
  2. 内容を理解する
  3. やることを具体的にする
  4. 最初の行動を決める
  5. 作業を進める
  6. 途中で判断する
  7. どこまでできれば終わりか判断する
  8. 報告する 

という流れになります。 

「仕事ができなかった」と感じたときも、どこで難しくなったのかによって、必要な工夫は変わってきます。 

「仕事ができない」のではなく、「どこにつまずいているか」に注目 

資料を作成する仕事で困ったときも、作成するスキルそのものが原因とは限りません。たとえば、作業を進めるプロセスのなかで、以下のようなポイントにつまずいている部分はないでしょうか? 

  • 指示の内容を具体的にするのが難しかった 
  • 何から始めればよいか決めにくかった 
  • 作業の順番を考えるのが難しかった 
  • 途中でどちらを優先すればよいか迷った 
  • どこまでやれば完成なのか分からなかった 
  • 自分では完成したと思ったが、相手の求めるものと違っていた など 

このように、「できなかった」という結果だけを見るのではなく、どこで止まったのかを見ていくことが大切です。 

すべての人が同じところで困るわけではありません。 

「自分には何ができないのか」だけでなく、「どの場面で負担が大きくなるのか」を見ていくことが大切です。 

「どこまでやれば終わり?」を確認する  

仕事では、「終了の判断」が意外と難しいことがあります。 

たとえば、「メールを確認しておいてください」と言われたら、メールを読むだけでよいのでしょうか。 

返信まで必要なのでしょうか。 

それとも、重要な内容をまとめて上司に報告するところまでが仕事なのでしょうか。 

「資料をきれいにしておいてください」という指示も同じです。 

誤字を直せばよいのか、文字の大きさをそろえるのか、レイアウトまで変更するのかによって、作業量は大きく変わります。 

仕事のゴールがあいまいだと、作業そのものよりも「どうすれば正解なのだろう」と考えることに負担がかかる場合があります。 

特に、厚生労働省のホームページの記事でも説明されているように、自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方にとって、「どこまでやればいいのか」という着地点が見えづらい状態は、業務を進めるうえで負担を感じやすい要因のひとつです。 

そのため、仕事を始める前に、 

「最終的には、どのようになれば終わりですか?」 

と確認してみることが役立つ場合があります。 

「どのくらいの時間を想定されていますか」「具体的にはどの資料を使えばよいですか」など、あいまいな指示を具体的にすることも大切です。 

このような「指示を具体化する」「聞き返す」という工夫は、当センターの別のコラムでも詳しく紹介しています。では、指示を理解できたあとに「一人でスムーズに作業を始める」ためには、具体的にどのような工夫ができるでしょうか。次に、最初の行動を促すためのステップを見ていきましょう。 

仕事を始められないときは、最初の一歩を小さくする 

仕事全体を一度に考えると、頭の中で考えることが増えてしまい、最初の行動を決めにくくなることがあります。 

また、 

「間違えたくない」 

「ちゃんとやらなければいけない」 

「最初から正しい方法で進めたい」 

という気持ちが強いと、始める前に考え続けてしまうこともあります。 

そんなときは、仕事を全部終わらせる方法ではなく、最初に何をするかだけを決めてみましょう。 

たとえば、資料を修正する仕事なら、 

「まず資料を開く」 

「まず全体を一度確認する」 

「まず修正する場所を3か所書き出す」 

という具合です。 

メール対応なら、 

「まず対象のメールを開く」 

「まず返信が必要か確認する」 

ところから始めます。 

最初から最後までの手順をすべて決めなくても構いません。 

最初の一歩を具体的にすると、その次に何をするかが見えやすくなることがあります。

「分かった」を「できる」につなげる3つの工夫 

ここまでの話を踏まえて、実際の仕事で使いやすい方法を3つご紹介します。 

1.完成した状態を確認する 

まず、「何をするか」だけではなく、「どのようになれば終わりなのか」を確認してみましょう。 

たとえば、 

「修正した資料を担当者に送れば完了でしょうか」 

「メールは返信までできれば完了でしょうか」 

「この見本と同じくらいの状態になれば完成でしょうか」 

と聞いてみます。 

完成形が分かると、そこから逆算して必要な作業を考えやすくなります。 

もし見本や過去の資料があるなら、実物を見せてもらうのもよい方法です。 

2.最初にすることを一つだけ決める

次に、仕事全体ではなく「最初の一歩」を決めてみましょう。 

たとえば、 

「資料を開く」 

「メールを確認する」 

「必要な情報を集める」 

などです。 

今回大切にしたいのは、単に作業を細かくすることだけではありません。 

自分がどこで止まりやすいのかを知り、その部分に合わせて最初の行動を選んでみることです。 

たとえば、始めることに困りやすい人なら「まず資料を開く」までを目標にします。 

途中で迷いやすい人なら「次に何をするかを確認する」ことを組み込んでおきます。 

3.「自分の理解」を短く共有してみる

自分のなかで最初の一歩が決まったら、今日初めに行う作業を「自分はこう理解した」と周囲に短く伝えてみるのもひとつの方法です。 

たとえば、 

「つまり、今日はこの資料を修正して、○○さんに送ればよいという理解で合っていますか」 

「まず資料を確認して、修正するところを整理してから作業を始めればよいでしょうか」 

というように伝えます。 

これは、分からないことを質問するだけではなく、自分と相手の理解をそろえるための方法です。 

もし認識が違っていても、仕事を始める前に修正でき、そのあとのトラブルや混乱を防ぐことができます。 

 

以上のように、まず作業の完成形を確認し、最初にやることを決め、自分で行うと決めた内容を周囲に確認することで、今自分がやるべきことが明確になり、取り掛かりやすくなります。 

うまくできなかったときは、「できる条件」を探してみる 

仕事が終わらなかったとき、「自分は仕事ができない」と考えてしまうことがあります。 

そんなときは、自分を評価する前に、次のように振り返ってみましょう。 

  • 指示は理解できたけれど、始められなかった
  • 作業は始められたけれど、途中で迷った 
  • 作業はできたけれど、終わりが分からなかった
  • 自分では完成したと思ったけれど、修正された
  • 見本があればできた 

そして、 

「見本があると進めやすかった」 

「締め切りが具体的だと動きやすかった」 

「最初の一歩を決めてもらうと始めやすかった」 

など、自分ができた条件も探してみましょう。 

これはとても大切な視点です。 

「なぜできないのか」だけを考えると、自分の苦手なところばかりに目が向いてしまいます。 

一方で、「何があればできたのか」を考えると、自分が力を発揮しやすい条件が見えてきます。 

まとめ 「分かったのにできない」ときは、どこで困ったのかを見てみましょう 

「説明は分かったはずなのに、仕事ができない」 

そんな経験が続くと、自分の理解力や仕事をする力に自信がなくなってしまうかもしれません。 

しかし、仕事には、理解したあとにもたくさんの工程があります。 

そのため、「分かったのにできなかった」ときは、自分の能力全体を否定するのではなく、自分がつまずいたところを振り返り、どうすれば先に進めるかを考えてみましょう。 

仕事の困りごとは、「自分がもっと頑張らなければ」と、一人で抱え込む必要はありません。 

仕事の進めやすさは、本人の特徴だけでなく、仕事の内容や指示の出され方、職場の環境によっても変わります。 

仕事で困っているとき、自分と職場の両方から、仕事を進めやすくする方法を探すことも大切です。 

たとえば、完成した見本を用意したり、必要に応じて確認する相手を決めておいたりするなどの工夫ができます。 

当センターでは、心理師が、面談や心理検査などを通して、仕事での困りごとを一緒に整理しています。 

初回の相談では、現在のお仕事の状況や困りごとを詳しくお伺いし、どのようなサポートや整理が可能かを丁寧にご案内しております。まずはお気軽に初回相談をご予約いただき、自分らしく力を発揮できる方法を一緒に探してみませんか。 

「できない理由」を探して自分を責めるだけではなく、「どうすれば自分の力を発揮しやすいのか」を一緒に考えていきましょう。

引用元・参考文献

コラムのご利用にあたって

当サイトのコラムは、こころの不調や働き方に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の診断や治療方針を示すものではありません。

ここケアセンターは医療機関ではないため、診断や薬の処方は行っていません。強い落ち込み、不眠、食欲低下、希死念慮、自傷の不安、仕事や生活への大きな支障が続く場合には、主治医や心療内科・精神科などの医療機関にご相談ください。

監修者

原井 宏明

原井クリニック院長 / ここケアセンター 顧問医

医師、精神保健指定医、精神科専門医・指導医(日本精神神経学会認定)、専門行動療法士(日本認知・行動療法学会認定)、認知行動療法師(日本認知・行動療法学会認定)、認知行動療法スーパーバイザー、認定動機づけ面接トレーナー(MINT認定)

・プロフィール
・原井クリニックHP


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