「あのとき、どうしてあんなことを言ってしまったんだろう」
「明日もうまくいかなかったらどうしよう」
夜、布団に入ったときや、ふと一人になった瞬間。過去の失敗や将来への不安が頭の中を駆け巡り、同じことを何度も何度も考え続けてしまうことはありませんか。
考えを止めようとすればするほど、かえってネガティブな気持ちがぐるぐると渦を巻き、頭から離れなくなってしまう。その結果、眠れなくなったり、強い疲労感や気分の落ち込みを感じたりすることもあるかもしれません。
「どうして自分はこんなに考えすぎてしまうんだろう」「もっと楽観的になれたらいいのに」と、ご自分を責めてしまっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ですが、まずはご安心ください。そのように同じ考えを何度も巡らせてしまう状態は、あなたの性格や心が弱いからだけではないと考えられています。
今回は、この「ぐるぐる思考」がなぜ起きてしまうのかという仕組みと、無理に消そうとせずに上手につき合っていくためのヒントについて、当センターの心理師がわかりやすくお話しします。
なぜ「ぐるぐる思考」が起きてしまうのか
頭の中で一人反省会が始まって止まらない状態は、ご自分でも止めたいのに止まらないため、悪い癖のように感じられるかもしれません。
心理学の世界では、このような状態を「反すう思考」と呼ぶことがあります。牛などの動物が食べたものをもう一度口に戻して噛み直すことになぞらえた言葉です。
自分を苦しめるだけの思考に思えるかもしれませんが、実はこの現象が起きること自体は、人間としてごく自然な脳の反応なのです。
脳があなたを守ろうとする問題解決システム
人間の脳には、トラブルや危険を予測し、それを解決しようとする優れた仕組みが備わっています。
何か困ったことや嫌なことが起きたとき、脳は自動的に「二度と同じ失敗をしないように原因を探そう」「事前に危険を察知して対策を立てよう」と働き始めます。つまり、ぐるぐる考えてしまう根底には、「問題を解決したい」「自分を守りたい」という脳の防衛本能があります。
たとえば、「あのとき失言をしてしまったかもしれない」と悩み続けているとき、脳の裏側では「人間関係のトラブルを防ぐために反省して対策を立てよう」としているかもしれません。あなたがご自分を守ろうと一生懸命に働いている証拠でもあると考えられます。
なぜ終わらないループにはまってしまうのか
しかし、この脳の問題解決システムにはひとつ大きな落とし穴があります。それは、「考えても答えが出ないこと」に対しても働き始めてしまう点です。
- 過去に起きてしまった出来事(どれだけ考えてもやり直せないこと)
- 他人の感情や評価(ご自分ではコントロールできないこと)
- まだ起きていない未来の不安(どうなるか予測できないこと) など
これらはいくら深く考えても、明確な答えや「絶対に正しい解決策」が見つかることはありません。
それにもかかわらず、真面目で責任感が強い人ほど「答えが出るまで考えなければ」と脳がフル回転を続けてしまい、結果として出口のないループにはまってしまうと考えられています。
「また考えすぎていたな」と気づいたときは、どうかご自分を責めないでください。「脳が自分を守ろうとして、少し空回りしているんだな」と客観的に受け止めてあげることが第一歩になります。
ぐるぐる思考と上手につき合うための3つのステップ
では、頭の中のぐるぐるが止まらなくなったとき、私たちはどのように対処すればよいのでしょうか。
無理に嫌な考えを打ち消そうとしたり、明るく考えようとしたりする必要はありません。考えは抑え込もうとすればするほど、かえって頭の中に強く居座ってしまう性質があるからです。
ここでは、ご家庭や職場で今すぐ試せる三つのステップをご紹介します。
ステップ1. 自分の考えに「名前」をつけて一歩引いてみる
考えすぎて苦しいとき、私たちは「自分の頭の中の考え」と「現実」をすっかり一緒にしてしまっています。「自分はダメな人間だ」と考えたとき、まるで本当に自分がダメな人間であるかのように感じて傷ついてしまうのです。
そんなときは、自分の頭に浮かんだ考えに対して、心の中で「〜という考えが浮かんでいる」と実況中継してみましょう。
- 「また失敗したらどうしよう」と考えたとき
➔「あ、『また失敗したらどうしよう』という考えが浮かんでいるな」と受け止める
- 「自分は本当に仕事ができない」と考えたとき
➔「自分は仕事ができない、という考えにとらわれているな」と言い換えてみる
このように言葉の末尾を少し変えるだけで、頭の中の考えと自分自身との間にフッと小さな隙間が生まれます。「考えを消そう」とするのではなく、「ただそこにある考え」として一歩離れて眺める練習をしてみましょう。
ステップ2. 「なぜ?」から「具体的にどうやって?」に切り替える
ぐるぐる思考が強まっているとき、私たちの頭の中は「なぜ?」という問いでいっぱいになりがちです。
- 「なぜ自分はいつもこうなんだろう」
- 「なぜあの人はあんな態度をとったのだろう」
「なぜ?」という抽象的な問いは対象が広すぎるため、終わりない後悔やご自分を責める気持ちを引き起こしやすく、頭を疲れさせてしまいます。
そこで問いの形を、「具体的にどうやって?」「次に何ができる?」という実践的な形に変えてみましょう。
- 「なぜ失敗したんだろう」と考えたとき
➔「次に同じような場面になったら、具体的に何を準備できるかな」と考えてみる
- 「なぜこんなに不安なんだろう」と考えたとき
➔「今、この不安を少し和らげるために、具体的にできる行動は何だろう」と問いかけてみる
頭の中での堂々めぐりから「今できる具体的な行動」へ視点を移すことで、脳の空回りを自然と落ち着かせることができるといわれています。具体的な行動が思い浮かばない時は、今は休むサインだと受け取ってください。
ステップ3. 五感を使って「今、ここ」に意識を戻す
ぐるぐる考えているとき、私たちの意識は「過ぎ去った過去」か「まだ来ていない未来」に飛んでしまっています。今この瞬間に意識を引き戻すために、体の感覚を使った簡単なリフレッシュ方法を試してみましょう。マインドフルネストレーニングとも呼ばれる方法です。
おすすめなのが、五感を使って周りの環境を確かめる方法です。
- 目に見えるものを五つ探してみる(例:時計、観葉植物、自分の手)
- 肌で感じていることを四つ確かめてみる(例:服の肌触り、足の裏がついている感覚)
- 耳に聞こえる音を三つ探してみる(例:部屋の静けさ、遠くの車の音)
- 鼻で感じる匂いを二つ探してみる(例:コーヒーの香り、部屋の空気)
- 口の中で感じる味を一つ確かめてみる(例:お茶の味) など
意識を体の感覚に向けることで、過剰に働いていた頭を休みモードにし、落ち着いた現実に戻ってくることができます。
専門家と一緒に気持ちを整理してみませんか
「考えすぎてしまうこと」は、あなたの長所である「慎重さ」や「物事を深く、丁寧に考えられるやさしさ」の裏返しでもあります。
ですが、そのぐるぐる思考が大きくなりすぎて、眠れなかったり日常の生活がつらくなったりしているときは、一人で抱え続ける必要はありません。
当センターでは、公認心理師や臨床心理士などの専門家が、あなたのお悩みや心の状態をやさしくお伺いします。一人ひとりの状態に合わせて、考え方のクセを整理したり、気持ちがラクになる対処法を一緒に見つけたりするサポートを行っています。
セルフケアを試しながら、時には専門家の力を借りることで、心の負担をより和らげることが期待できます。
「こんな些細なことで相談してもいいのかな」「うまく話せるか不安」という方も、どうぞ安心してお気軽にお問い合わせください。
あなたの心が少しでも軽くなり、ご自分らしくホッと過ごせるよう、当センターが丁寧に寄り添ってまいります。
引用元・参考文献
- Reflecting on rumination: Consequences, causes, mechanisms and treatment of rumination
Watkins, E. R., & Roberts, H. (2020). Behaviour Research and Therapy, 127, 103573.
- 反すうが自動思考と抑うつに与える影響
西川大志, 松永美希, 古谷嘉一郎 (2013). 心理学研究, 84(5), 451-459.
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