「また食べすぎてしまった……」「なぜ自分はこんなにも意志が弱いのだろう」
そのように自分を責めて、一人で苦しんでいませんか。 過食をしてしまった直後、激しい自己否定や強い罪悪感、人には言えない恥ずかしさに苛まれる方は少なくありません。しかし、心理療法の一つである認知行動療法の視点では、過食はみなさんの「意志の強さ」や「性格」の問題ではないと考えます。
過食とは、心や体が限界を迎えたときに、脳が一時的に自分を守ろうとして選んだ「防衛反応」なのです。
この記事では、過食が起きてしまう心のメカニズムや、今日から試せる具体策、そして公認心理師などの専門家と一緒に取り組むサポートについてやさしく解説します。
なぜ過食が起きるの? 心理と脳のメカニズム
一度始まった過食から抜け出すのが難しく感じられるのは、心理面と脳のメカニズムに理由があると考えられています。まずは、過食を引き起こす主な仕組みについて見ていきましょう。
心の空腹を満たそうとする「エモーショナル・イーティング」
お腹が空いているわけではないのに、不安、寂しさ、退屈、疲労、虚しさといった心のつらさを満たすために食べてしまう現象を、「エモーショナル・イーティング(感情的摂食)」と呼びます。感情を言葉にして整理したり調整したりするのが難しいとき、食行動がその感情を抑え込む役割を代行してしまうのです。
さらに過食が習慣化すると、脳が本当のお腹の空き具合を感じ取る感覚が鈍くなり、「嫌な気分を消したいから食べる」という状態が当たり前になってしまうこともあります。
「我慢」と「爆発」を引き起こす極端な考え方
「〇〇は絶対に食べてはいけない」といった厳格なルールを自分に課すことは、実は過食の大きな引き金になります。
エネルギー不足を感じた脳は、生存本能として強力な「食べたい」という指令を出します。それに加えて、「少しでもルールを破ったら全て台無しだ」という極端な考え方に陥ると、我慢していたタガが外れ、反動として大きなむちゃ食いへと爆発してしまうのです。
脳の報酬系と安心感の学習
食べること、特に高カロリーなものを食べることは、脳内で一時的に安心感をもたらす物質を分泌させます。ストレスを感じたときに「食べて楽になった」という体験を繰り返すと、脳の中に「ストレスを感じたら過食で解決する」という回路が強く作られてしまいます。これが、無意識に過食を繰り返してしまう悪循環につながると考えられています。
体重や体型への過度な自己評価
自分の価値や自尊心のほとんどを体重や体型の細さだけで推し量ってしまう傾向も、過食の背景に深く関係しています。「痩せなければ自分には価値がない」という強い思い込みが過度な食事制限を生み、それが巡り巡って過食を引き起こすというループを作ってしまうのです。
つらい過食から抜け出すための5つのステップ
当センターでは、認知行動療法という心理療法に基づいたアプローチをおすすめしています。自分のペースで試せる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:セルフモニタリングで自分の状態を「見える化」する
まずは、自分が「いつ・どこで・何を・どれくらい食べ、そのときどんな感情があったか」をノートやスマホに記録することから始めてみましょう。
- 食べた時間と内容、その量
- 食事を摂った場所やシチュエーション
- 食前や食後に感じていた感情(「仕事のミスで不安」「一人で寂しい」など)
- むちゃ食いだと感じたかどうか など
後からまとめて思い出すのではなく、食べた直後やその場で記録をつけることで、これまで無意識に行っていた食行動を客観的に観察できるようになり、自分をコントロールするための土台が整います。
ステップ2:過食の「引き金」とパターンを特定する
記録を続けていくと、過食が起きやすい特定のパターンや傾向が見えてきます。
- 環境の引き金: 職場の帰り道にあるコンビニ、誰もいない夜の部屋、疲れて帰宅した直後のキッチン
- 感情の引き金: 上司に叱られた後の理不尽さ、週末の孤独感、将来への漠然とした不安
- 身体の引き金: 長時間の空腹状態、睡眠不足、生理前の体の変化 など
何が自分を過食に駆り立てているのかというきっかけを知ることで、「帰り道のルートを変える」「帰宅後はお気に入りの温かいお茶を飲む」といった対策を事前に立てやすくなります。
ステップ3:衝動の波をやり過ごす「代替行動」を試す
過食の衝動はずっと強まり続けるわけではなく、波のようにピークを迎えたあとは自然と引いていく特徴があります。衝動が起きたら、食べ物に手を伸ばす前に「約15分間」別の行動をして時間を稼ぐ練習をしてみましょう。
- 五感を刺激する行動: 冷たい水で顔を洗う、ミント系の強いガムを噛む、アロマオイルの香りを嗅ぐ
- 安心感を得る行動: 好きな音楽を聴く、温かいノンカフェインの飲み物を飲む、柔らかいクッションを抱きしめる
- 意識をそらす行動: 信頼できる友人に連絡する、好きな動画を見る、外の空気を感じながら軽く散歩をする など
自分にとって気持ちが落ち着く「食べる以外の行動リスト」をあらかじめ作っておくことが大切です。
ステップ4:「厳しいルール」を緩めて規則正しい食事を意識する
「〇〇は絶対禁止」といった極端な制限を減らし、まずは規則正しい食事パターンを目指しましょう。
あらかじめ計画的に好きなものを食べる許可を自分に与え、体に定期的に栄養を届けることで、脳の飢餓状態を防ぎ、反動による過食のリスクを下げることが期待できます。
ステップ5:考え方の幅を広げて心にかかる負担を減らす
「完璧にできない自分はダメだ」「一度でも過食したらすべて終わりだ」といった極端な考えが浮かんだときは、「本当にそうなのかな?」「もし大切な友人が同じ状況だったら、どんな言葉をかけるだろう?」と自分に問いかけてみてください。
「完璧じゃなくても60点できれば十分」「失敗しても次の食事から仕切り直せばいい」というように、しなやかな捉え直しができるようになると、心にかかるプレッシャーがやわらいでいきます。
もしも過食をしてしまったときはどうすればいい?
どんなに予防策を講じていても、ときには過食をしてしまう日もあります。しかし、そこで「今までの努力が台無しになった」と落ち込む必要はありません。過食をしてしまった直後の過ごし方がとても大切です。
「食べた分を取り戻そう」と無理をしない 食事を抜いたり、無理に激しい運動をしたりしてカロリーを消費しようとしないことが重要です。
こうした極端な取り戻し行動は、体に強い飢餓感を与えて脳の防衛本能を刺激するため、次の大きな過食を引き起こす原因になりやすいといわれています。うまくいかないと感じたときでも、次の食事はいつも通りの時間に適量を摂ることが回復への近道です。
心と体をやさしくいたわる
「今日は心が押しつぶされそうになって、必死で自分を守ろうとしてくれたんだな」と捉え直してみましょう。
過食はあなたの人間性を否定するものではありません。温かい飲み物を飲んだり、お気に入りの毛布にくるまったりして、疲れた体を静かに休めてあげてください。
今の気持ちをそのまま紙に書いてみる
過食後の落ち込みや不快な気分を、思いつくままノートに書き出してみるのも効果的です。
- 「何があったときに過食したくなったか」
- 「その時どんな感情(悲しさ、怒り、疲労)があったか」
- 「食べた後、どんな気持ちになったか」 など
自分の感情を言葉にして外に吐き出すことで、気持ちを客観的に眺められるようになり、心が落ち着きやすくなります。 また、その記録は次の過食を防ぐための貴重なデータとして活用することができます。
専門家と一緒に進める回復へのアプローチ
過食が週に何度も起きている、食べたあとに吐いたり下剤を使ったりしている、体重が短期間で大きく変動している、といった場合には、まず医療機関を受診してください。過食には身体への影響を伴うことがあり、心理面の支援とあわせて医師による診察が必要になります。そのうえで、日々の食行動との向き合い方については、心理師と一緒に取り組んでいくことができます。
過食からの回復は、「食べ方を改める作業」だけではありません。「つらさを過食でごまかす方法」から、「自分の感情を大切にしてやさしくケアする生き方」へと少しずつ変化させていくプロセスです。 途中でうまくいかない日があっても、「3歩進んで2歩下がる」ペースで十分です。「以前より自分の気持ちに気づけるようになった」といった小さな変化を認めながら、焦らず進めていきましょう。あなたが自分自身をやさしく受け入れ、穏やかな日常を取り戻せるよう、当センターは、医療機関とも協力しながら、できるかぎりのサポートをいたします。
参考文献
- 摂食障害に対する認知行動療法 CBT-E 簡易マニュアル 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神・神経疾患研究開発費研究事業「心身症・摂食障害の治療プログラムと臨床マーカーの検証」
https://www.jsed.org/wp-content/uploads/2019/05/cbt-e.pdf - Link, L. A., & Peterson, C. B. (2025). Mindfulness‐based interventions for binge eating: An updated systematic review and meta‐analysis. Journal of Behavioral Medicine, 48(2), 241–258.
https://link.springer.com/article/10.1007/s10865-025-00550-5 - 摂食障害の認知行動療法(Enhanced Cognitive Behavior Therapy :CBT-E)安藤哲也(2020)
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1220090643.pdf
コラムのご利用にあたって
当サイトのコラムは、こころの不調や働き方に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の診断や治療方針を示すものではありません。
ここケアセンターは医療機関ではないため、診断や薬の処方は行っていません。強い落ち込み、不眠、食欲低下、希死念慮、自傷の不安、仕事や生活への大きな支障が続く場合には、主治医や心療内科・精神科などの医療機関にご相談ください。




