
うつ病になると、日常の小さなことさえ決めるのが難しくなることがあります。食事に何を食べるか、どこに出かけるか、あるいは人に連絡を取るかどうかといった、普段なら迷わずにできていた選択が、急に大きな壁のように感じられるのです。
このような意思決定のしづらさは、うつ病の症状のひとつであり、怠けているからでも意欲がないからでもありません。ここでは、うつ病と意思決定の関係について解説し、どのように向き合えばよいかを考えてみましょう。
なぜうつ病になると意思決定が難しくなるのか
うつ病の主な症状には、抑うつ気分や意欲の低下、思考力の低下、自己評価の低下などがあり、これらが複合的に意思決定を難しくさせています。
まず、うつ状態にある人は、自分の判断に自信が持てなくなる傾向があります。「自分が決めたことはきっとうまくいかない」「何を選んでも意味がない」という否定的な思考が浮かびやすくなります。
また、うつ病の人は未来を悲観的に見やすくなるため、何かを選ぶということ自体が不安や負担になってしまいます。
たとえば、仕事を続けるか辞めるか、誰かに会うか会わないかといった判断が、極端に重く感じられ、決められずに悩み続けてしまうのです。
さらに、脳の働きにも変化が起きています。研究では、うつ病の人は前頭前野という思考や判断をつかさどる脳の領域の活動が低下していることが分かっています。
このため、情報を整理したり、選択肢を比較したりする力が弱まり、結果として意思決定に時間がかかったり、何も選べなくなったりするのです。
意思決定ができないときに心がけたいこと
うつ病の時期に大きな決断を迫られたときは、焦って結論を出そうとする必要はありません。むしろ、決断を一時的に保留することもひとつの選択です。気分が回復してから改めて考えることで、冷静に判断できることも多くあります。
また、意思決定が難しいと感じたときには、自分ひとりで抱え込まず、信頼できる人に相談してみましょう。人と話すことで考えが整理され、選択肢が見えやすくなることがあります。専門家との対話も有効です。
公認心理師や医師は、判断を代わりに下すわけではありませんが、あなたの考えを引き出し、サポートする役割を担ってくれます。
もうひとつ大切なことは、小さな選択を積み重ねることです。たとえば、今日はどの服を着るか、どの飲み物を選ぶかといった、ささいなことでも「自分で決めた」という感覚が少しずつ積み上がっていきます。
それがやがて、「自分は物事を選べる」という実感につながり、自信を高めることにつながっていきます。
自分を責めないことが回復の土台になる
意思決定ができない自分を責める必要はありません。うつ病に伴う症状のひとつとして、誰にでも起こりうるものです。「決められない自分はダメだ」と思うよりも、「今は脳がうまく働かない時期なんだ」と捉えることで、心が少し楽になることがあります。
うつ病が回復してくると、徐々に思考が整理できるようになり、選択に対する不安も和らいでいきます。
そのときには、「あのときはうまく決められなかったけれど、今は少しずつ前に進めている」と振り返ることができるようになるでしょう。
まとめ
うつ病は、意思決定を難しくさせる病気です。それは、思考の偏りや脳の働きの変化、そして自己評価の低下が重なり合って生じるものです。無理に大きな決断を迫らず、小さな選択を丁寧に積み重ねていくことが、自分を取り戻す第一歩になります。
今は決められなくても大丈夫です。回復の過程で、また考えられる日がやってきます。焦らず、自分のペースで進んでいきましょう。
当てはまるものがあったら
もし、うつ気分や否定的な思考が続いている場合は、専門家に相談することをおすすめします。焦らず少しずつ前に進んでいきましょう。
物事の見方を少し変えるだけで、気分が軽くなることもあります。小さな視点の変化を積み重ねながら、自分のペースで前向きな一歩を踏み出してみましょう。