「あの人のことが頭から離れない」「職場に行くたびに気持ちが重くなる」「なぜこんなに苦手意識があるのか、自分でもうまく説明できない」──そんな気持ちを抱えていませんか。
職場の人間関係の悩みは、「相手が悪い」「自分の受け取り方が悪い」というように、どちらか一方に原因を求めたくなるものです。でも実際には、そう単純ではありません。相手の言動、自分の受け取り方、関係性の歴史、その日の疲れ、職場全体の雰囲気──さまざまな要素が絡み合って、苦手意識やつらさは生まれています。
だからこそ、「気持ちの整理がつかない」「どう対処すればいいのかわからない」という状態になるのは、当然のことです。この記事では、職場の苦手な人への苦手意識がなぜ生まれやすいのか、その背景を整理した上で、認知行動療法の考え方がどのように役立つかをお伝えします。「答えをすぐに出す」ことよりも、「今自分に何が起きているのかを少しほどいていく」ことを大切にしたい方に、読んでいただけると嬉しいです。
うまくいかないのは、あなたが弱いからじゃないかもしれない
友人関係であれば、合わないと感じた相手とは自然に距離を置けます。しかし職場はそうはいきません。毎日顔を合わせ、協力して仕事を進めなければならない。しかも、そこには評価する・されるという関係が常に存在しています。
さらに難しくするのは、苦手意識の「正体」が一つではないという点です。相手から傷つく言葉をかけられた、という明確な出来事がある場合もあれば、特に何かされたわけでもないのにどうにも気になってしまう、という場合もあります。自分が疲れているとき、普段は気にならない相手の言動が急に引っかかるようになることもあります。あるいは、過去の職場や別の関係で傷ついた経験が、今の特定の人への反応に影響していることもあります。
これらは別々に存在するのではなく、多くの場合、複数が重なり合っています。「あの人の言い方がきつい」という出来事があり、同時に「今の自分は疲れていてキャパが小さい」という状態があり、さらに「以前も似たようなことがあって傷ついた」という記憶がある。そのすべてが合わさって、今のつらさに影響していることがあります。
だから、「自分はどうしてこんなことで悩んでいるんだろう」と自分を責める必要はありません。さまざまな要素が重なり合っているから難しいのであって、あなたが弱いわけでも、対処能力が低いわけでもありません。
職場の苦手な人への感情、その正体を少しだけ見てみませんか
複雑に絡み合った状況に対して、認知行動療法は、すぐに答えを出すためのツールではありません。むしろ、「今自分に何が起きているのかを整理する」ための枠組みを提供するものです。
認知行動療法では、ある出来事に直面したとき、そこで自動的に浮かぶ考え方(認知)が、感情や行動に大きく影響すると考えます。たとえば、上司に「それは違う」と指摘されたとき、「改善のヒントをもらった」と受け取る人もいれば、「自分はダメだと思われた」と受け取る人もいます。同じ出来事でも、そこに浮かぶ考え方によって、その後の感情や行動はまったく変わります。
大切なのは、「どちらの受け取り方が正しいか」を判定することではありません。苦手意識や不快感が生まれたとき、「そのとき自分にはどんな考えが浮かんでいたか」に少し目を向けてみることです。自分の考え方のくせに気づくことで、今まで見えていなかった自分の反応のパターンが、少しずつ見えてくるようになります。
認知行動療法では、自分の思考や感情を振り返ることが、気づきを深める一つのきっかけになると考えられています(参考:国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)。難しく考える必要はなく、たとえば苦手意識が強く出た場面を振り返り、「そのとき何を考えていたか」「どんな気持ちだったか」をメモ程度に書き留めてみることが、その入口になりえます。正解を出そうとするのではなく、自分の反応をただ観察してみる、という感覚で試してみると、取り組みやすいかもしれません。
苦手だと感じること、責めなくていいかもしれません
職場の人間関係でつらくなっている方の中には、苦手意識を持つこと自体を「いけないことだ」と思い、さらに自分を責めるという悪循環に陥りやすい傾向があります。
「こんなことで悩む自分がおかしい」「もっとうまくやれるはずなのに」「あの人を苦手に思うなんて自分が大人げない」──こうした考えが重なると、苦手意識そのものよりも、自己批判のストレスのほうが大きくなってしまうことがあります。
認知行動療法では、感情・思考・身体・行動は互いに影響し合うと考えます。自分を責め続けると気持ちがさらに落ち込み、その落ち込みが、ものごとをよりネガティブに受け取りやすくさせる。そのネガティブな受け取り方がまた苦手意識を強める。こうした悪循環が、実際の状況よりもずっと大きなつらさを生み出している可能性があります。ただ、この循環に気づくこと自体が、少し楽になるきっかけになることがあります。
まず手放せると少し楽になるかもしれないのは、「苦手意識を持ってはいけない」という思い込みです。感情は、自分の意志でコントロールできるものではありません。感じてしまうこと自体を責めるのではなく、「今自分はこう感じているんだな」とまず受け止めることが、悪循環を断ち切る最初の一歩になります。
一人で考え込むほど、しんどくなりやすい理由
こうした複雑な絡まりを自分一人で解きほぐそうとすることには、限界がある場合も少なくありません。人は自分のことを客観的に見るのが難しい面があります。自分の考え方のくせは、自分では当たり前すぎて気づきにくい。自分の反応のパターンも、第三者の目があってはじめて見えることがよくあります。
また、人間関係のつらさには、感情が強く伴います。強い感情があると、冷静に状況を見ることがさらに難しくなります。「あの人がどうしても許せない」という気持ちが強いとき、「もしかすると自分の受け取り方が影響しているかもしれない」と考えることは、とても難しいことです。
だからこそ、専門家と話す場があることには意味があります。心理師によるカウンセリングでは、あなたの話をただ聞くだけでなく、「今の状況にはどんな要素が絡んでいるのか」「自分の反応のどんなパターンが見えてくるか」を一緒に整理していきます。自分では気づきにくかった考え方のくせや、積み重なっていた疲れのサインに気づくことが、状況を変えていく入口になることがあります。
ここケアセンターでは、公認心理師が認知行動療法を中心としたアプローチで、職場の人間関係のつらさを抱える方のサポートをしています。特に、「次の職場でも同じことが起きるのでは」という不安を持ちながら復職や再就職を考えている方には、自分の反応パターンや特性を一緒に整理することが、長く安定して働くための土台になりえます。初回カウンセリングは無料です。「今はまず自分のことを整理したい」という段階でもお気軽にご相談ください。
まとめ
職場の人間関係がつらいのは、あなたが弱いからでも対処能力が低いからでもありません。相手の言動、自分の状態、過去の経験、職場の環境など、複数の要素が複雑に絡み合っているからこそ、難しくなりやすいのです。認知行動療法は、その複雑さを整理するための枠組みを提供します。「今自分にどんな考えが浮かんでいたか」に目を向け、自己批判の悪循環から抜け出していくことが、状況を変える第一歩になります。一人で抱えきれないと感じたときは、専門家のサポートを活用してください。
引用元・参考文献
- 令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r05-46-50b.html - うつ病の認知療法・認知行動療法 患者さんのための資料|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf - そもそも認知行動療法(CBT)ってなに?|NCNP病院
https://hsp.ncnp.go.jp/column/heart_detail.php?@uid=z2k2n4nL38dv9EYM - 認知行動療法(CBT)とは|認知行動療法センター(国立精神・神経医療研究センター)
https://cbt.ncnp.go.jp/contents/about.php


