統合失調症ってどんな疾患?
統合失調症は、100人に一人の割合で発症する疾患です。
統合失調症の症状は多彩です。例えば、現実を認識する能力や、感情や判断、意思伝達など、幅広い領域に障害が生じてきます。また、幻聴や妄想のような症状が顕著に出てくることで有名な疾患です。
多くの場合は、30歳以前の青年期に統合失調症を発症するので、それによって失業や退学といった社会的逆境に陥ることが多く、その後の生活に大きな与える影響を与えると言われています。
統合失調症に見られる症状
統合失調症には、大きく分けると「陽性症状」「陰性症状」の2つの症状が見られます。
「あるはずがない!!」を経験する陽性症状
陽性症状とは、現実離れした言動や脈略のない言動などが目立ち、強い興奮や怒りの表現が見られる状態を指します。
例えば、誰かが自分を敵視してみていると考える「迫害妄想」、身の回りで起きたことを自分と関連付けて考える「関係妄想」、誰かが自分をジロジロ見ていると考える「注察妄想」等の妄想や、「○○しろ」など誰かが自分に命令してくる声が聞こえてくる「命令性幻聴」、自分の考えが他の人の声で聞こえてくる「思考化声」等の幻聴、があります。
「あるはず!!」を経験しにくくなる陰性症状
陰性症状とは、感情が平板になって、意欲が欠如している状態を指します。
例えば、感情が平板となっているために表情の変化が乏しく「能面のような」顔が見られたり、仕事や学業への意欲が低下し退職や退学したり、まとまりのない発言が目立ったりする症状がみられたりします。
統合失調症の経過
統合失調症の経過は、「前駆期」→「急性期」→「消耗期」→「回復期」→「寛解期」の5つの時期に分けられます。
前駆期
統合失調症に罹患する方の4分の3の方に見られる時期で、抑うつ気分、思考力や記憶力、の低下、倦怠感などを主に陰性症状を平均5年に渡って経験します。家族や身近な人は、口数が少なくなったり、身の周りのことへの関心がなくなっているなどの異変を感じ始める時期です。
急性期
約数週間~数か月間、妄想や幻覚等いわゆる陽性症状が顕著に見られます。
家族や身近な人は、本人による妄想をともなった奇異な言動に気づいて異変を感じる時期です。本人にそれらの誤りを指摘したりや説得したりしても、多くの場合本人の改善が見られません。この時期は、本人にとって、強い興奮状態を経験しており、自分が病気だという自覚も持ちづらく、通院や服薬を拒否する場合が多い時期です。
消耗期
約3か月~6か月間、それまで見られていた興奮状態によってエネルギーを使い果たしてしまったかのように、無気力で何もしない状態で、陰性症状が見られます。
本人が横になっている時間が多くなります。家族や身近な人からは、本人の元気がなく沈んでいる様子を見て、回復の兆しを感じられず、この期間が非常に長く感じやすいと言われています。しかし、本人の内部では回復に向けて徐々にエネルギーを溜めている時期と考えられています。
回復期
消耗期でエネルギーが蓄えられることによって、徐々に興味関心が湧いてきて、無気力な状態から徐々に回復していく様子が見られます。
この時期では、友人と電話をしたり、本を読んだり、無理なく活動を続けていくことで徐々に家事などをこなしながら、日常生活を送れるようになっていきます
寛解期
これまで見られていた症状の重症度が軽度もしくは消失し、社会的活動が可能で情緒面での安定が長期間続いている状態のことを寛解期と呼んでいます。
それまでの状態に比べて安定した日常生活を送れていますが、再発の可能性が高く、継続的な治療が必要です。しかし、長期間にわたり服薬し続けることへの不安から自己判断での断薬をしてしまい、再発するという方もいらっしゃいます。
どうして統合失調症を発症するの?
統合失調症が発症する原因については、明確な原因がわかっておらず様々な仮説が立てられていますが、これまでの知見を統一的に理解しようとする「脆弱性ストレスモデル」が広く採用されています。このモデルでは、本人元来の脆弱性(遺伝や出産時の合併症、ウイルス感染、幼少期の虐待等)が小さなリスクとして積み重なっているところに、本人の対処能力を大きく超えた心理社会的ストレスが引き金となって統合失調症を発症すると考えられています。
統合失調症の治療法
生物学的視点からの治療(薬物療法)
統合失調症では、主に、抗精神病薬を中心とする薬物療法によって症状を和らげていきます。抗精神病薬(ジプレキサ、エビリファイ等)は、脳内で過剰に分泌されているドーパミンの活動を抑えることによって陽性症状をおさえる働きをしてくれています。
統合失調症の治療においてこの薬物療法は必要不可欠なものとされており、寛解後も再発を予防してくれる強い味方になります。
心理社会的視点からの介入(心理療法)
統合失調症の治療にあたって、薬物療法が治療の中心ですが、薬物の効果をより有効なものにしたり、薬物治療をしても生じる限界を超えるために、さまざまな介入方法が検討されてきました。
心理教育
心理教育では、統合失調症に罹患した本人やその家族に、統合失調症という病気や薬物療法について正しい知識を提供していきます。正しい知識を獲得することにより、統合失調症に対する偏見や誤解を解消し、統合失調症を受容する準備が整ったり、治療に対する態度が改善し、薬物治療への動機を高める効果が期待されています。
SST(ソーシャルスキルトレーニング:社会技能訓練)
統合失調症に罹患すると、さまざまな症状が出てきます。それによって社会的機能の低下が生じて人生に大きな影響を与えてしまいます。SSTによって社会技能の向上を行うことで、社会的ストレスが軽減されます効果が期待されています。
認知行動療法(CBTp)
CBTpは抗精神病薬と並行して実施されます。統合失調症の特有の幻聴や妄想を生み出す認知の問題に焦点を当てたり、陽性症状に対する確信度を下げることで妄想などに囚われない行動を行えるように促したりするなど、さまざまな手法を用いられます。陽性症状、陰性症状、認知的社会的機能などの様々な症状に対して有効とされています。
「図解 やさしくわかる 統合失調症」(功刀, 2014)
「臨床心理学:第22章 統合失調症の理解と支援」(丹野ら, 2015)
「統合失調症のみかた、治療のすすめかた」(松崎, 2017)
「統合失調症の臨床心理学」(横田ら, 2003)
「統合失調症を理解し支援するための認知行動療法」(石垣・丹野, 2011)