休職するまでの経緯と当センターに決めた理由

Aさんは学生時代を通して人付き合いは得意なほうではありませんでしたが、学校生活でつまずくことは特にありませんでした。大学卒業後、現在も勤めている製造業の会社に就職されています。
入社1年目の2月。機械のトラブルにうまく対応できず、先輩から強く叱責されたことをきっかけに、気持ちが沈む日が続くようになりました。仕事のことを先輩に相談してみたものの、十分に話を聞いてもらえず、1週間の有給休暇を取得されています。
2年目の4月には現在の部署(品質管理課)へ異動となりましたが、そこでも先輩との関係は良好とはいえない状態が続きました。
4年目、私生活の悩みと仕事のうまくいかなさが重なります。「消えてしまいたい」という気持ちが出てくるようになり、休職となりました。気持ちの落ち込みが強く、2か月間、精神科に入院されています。
退院後、病院のソーシャルワーカーからの紹介で、当センターのご利用を開始されました。

利用開始時のAさんの状態

ご利用を始めたころのAさんは、気持ちの落ち込みがなかなか抜けない状態が続いていました。お話をうかがう中で、その落ち込みが長引いている背景には、大きく2つのことがあると考えました。

職場で、質問できなくなっていた

 仕事でわからないことがあっても「質問すると嫌な対応をされる」と考えてしまい、質問できなくなっていました。質問だけでなく、雑談も避けるようになっていました。

家でも、考えが止まらない

仕事以外の時間も「この先もっとつらくなるのではないか」「先日の先輩の態度はどういう意味だったのだろう」といった考えが頭から離れず、楽しみを感じられなくなっていました。もともと好きだったゲームや服の買い物もしなくなり、ご自宅で嫌なことを考え続ける時間が増えていました。

そこで当センターでは、「人との関わりに少しずつ慣れていくこと」と「楽しめる活動を取り戻すこと」の2つを柱に、Aさんに合わせたプログラムを組み立てていきました。

復職までの支援

復職までの道のり

ご利用開始 週1回・短時間の通所からスタート
約1か月後 週3日、そして週5日へ
8か月後 主治医・職場の許可を得て、もとの職場へ復職

週1回の通所からスタート

ご契約当初は退院直後で、気持ちの落ち込みが強く、動ける時間もわずかでした。そのため、まずは週1回・短時間の通所から始めています。約1か月で気分も体力も少しずつ戻ってきたため、週3日、さらに週5日へと通所日数を増やしていきました。

支援の柱は、集団プログラムと個別カウンセリング

心理支援集団プログラムでは、うつ症状への有効性が示されている「集団認知行動療法」「うつと不安の統一プロトコル」「行動活性化」に加え、人付き合いの苦手さに対応する「SST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング)」を中心に実施しました。あわせて、復職後に週5日・8時間の勤務ができる体力を養うため、これら以外のプログラムにも継続して参加いただきました。
Aさんは「人と関わると嫌な結果になるかもしれない」という考えから、関わりを避けることで不安をやりすごしていました。
カウンセリングでは、その“避ける行動”こそが不安を続かせていることを一緒に確認し、その考えが必ずしも事実ではないことを検証しながら、不安を抱えたまま人と関わる練習を段階的に重ねました。
具体的には、人と関わった結果、必ずしも悪いことばかりではなかったと振り返ったり、集団プログラムのグループワークで、これまで控えていたご自分の話題を話すことに挑戦していただきました。
関わっても大丈夫だった経験が積み重なり、人と関わることへの抵抗感は徐々に軽くなっていきました。ときには嫌な出来事も経験されましたが、そうした出来事があっても生活は続けられることを確認でき、過度に避けることはなくなりました。

「楽しい」を取り戻す行動活性化

楽しめる活動をしなくなったことで、ご自宅では嫌なことを考え続け、さらに気分が落ち込み、活動量が下がるという悪循環に陥っていました。そこでこの悪循環を共有したうえで、「ネガティブな気持ちがあっても、本来やりたい活動を行う」という行動活性化療法に取り組みました。

もともと楽しんでいたゲームやアニメ鑑賞、服の買い物などを無理のない範囲で再開していただいたところ、ネガティブな思考に費やしていた時間が、楽しめる時間へと置き換わっていきました。自然と生活を楽しめるようになり、その後は週5日、10時から16時過ぎまでセンターで過ごしても、疲労感はほとんどみられなくなりました。

9時から18時の生活リズムづくり

始業の9時から終業の18時までを想定した活動スケジュールを作成し、そのとおりに生活する練習を行いました。これも問題なく実施でき、抑うつの程度も自己記入式の検査で問題のない範囲まで低下しました。

8か月で、もとの職場へ

当センターと職場とで復職調整を進め、主治医および職場双方から復職の許可が得られ、もとの職場へ復職されました。ご利用期間は8か月でした。

復職後の支援

半年間の無料フォローアップ

復職後半年間は、当センターの無料フォローアップ支援として、月1〜2回のカウンセリングを実施しました。
お仕事では、つらいことがあっても質問できるようになり、業務を一人で抱え込むことはなくなりました。私生活でも、ゲームや服の買い物など楽しめる活動を継続され、ときには友人と遊びに出かけるなど、楽しめる活動の幅も広がっていきました。

不安定に揺れても、立て直せる

復職半年後からは、就労定着支援(就労後6か月以降に利用でき、最長3年間利用できる福祉サービス)のご利用を開始。月1〜2回のカウンセリングに加え、必要に応じて職場との連絡調整も行いました。
経過中、一時的に状態が不安定になることもありましたが、その際はいずれも、嫌なことを考え続け、楽しめる活動が減っている時期でした。そのつど、楽しめる活動を継続・再開することで気分の改善を図りました。

Aさんが見つけたコツ

「休職前も休職中もつらいことはありました。つらいときに何もしないで止まってしまうと、余計につらくなることが分かりました。つらい気持ちがあっても、できる範囲で楽しめることを続けることが、楽になるコツだと分かりました。」
と、笑顔で語ってくださいました。

3年半後、ご契約を終了

復職から3年半後(無料フォローアップ6か月、就労定着支援3年間)、大きな気分の乱れはなく、就労も安定して継続できていたことから、当センターとのご契約を終了しました。今後、困りごとが生じた際には自費カウンセリングをご利用いただけることをご案内し、支援を終結しています。