Columnコラム

「怒らせたかも」と思ったとき。決めつけず、こじらせない受け止め方

「怒らせたかも」と思ったとき。決めつけず、こじらせない受け止め方

何か話したあとに相手の表情がふっと曇ると、「怒らせてしまった」「自分が悪かったんだ」と、頭の中が一気にその考えでいっぱいになる。そんな経験はありませんか。

人との関わりに不安を感じやすい方ほど、相手のわずかな変化を悪いほうへ受け取り、強く落ち込んでしまいがちです。けれど、ここには二つの落とし穴があります。ひとつは、本当は怒っていない相手を「怒っている」と思い込み、必要以上に自分を責めてしまうこと。もうひとつは、相手が本当に困っているのに、あわてて見当違いの対応をしてしまい、かえって事態をこじらせてしまうことです。

こうした場面で大切なのは、現実のあいまいさをできるだけありのままに受け止めたうえで、その場にふさわしい対応を選ぶことだと考えます。

「怒っている」と感じた瞬間に、心の中で起きていること

相手の表情があいまいなとき、私たちの心は無意識のうちに、自分なりの解釈でそのすき間を埋めようとします。警戒心が強い状態だと、その解釈は悪いほうへ傾きやすくなります。

相手のわずかな言動から「自分を悪く思っているに違いない」と根拠なく決めつけてしまう考え方を、「心の読みすぎ」という考え方のクセのひとつとして、クセに気づいてほぐしていくことが大切です。

似た働きとして、心理学の研究では「敵意帰属バイアス」と呼ばれるものも知られています。これは、人の心のしくみを調べる研究の中で見つかった傾向です。かんたんに言うと、相手にそのつもりがなくても「相手の行動には悪意が隠されている」と判断しやすくなるということです。なぜ私たちが悪いほうへ読みやすいのか、その背景を知る手がかりになります。

どちらも性格の弱さではなく、不安な状況に疲れや自信のなさが重なったときに誰にでも起こりやすくなる心の働きです。まずは「自分は今、悪いほうに読み取りやすい状態かもしれない」と知っておくだけで、受け取り方に余裕が生まれます。

その表情、怒りとは限りません

仮に相手がネガティブな表情をしていても、それが「怒り」とは限りません。よく似て見える別の感情に、嫌悪があります。怒りと嫌悪は、それぞれ異なる基本的な感情のひとつとして研究されてきました。しかも、表情とそのときの気持ちが、いつもぴったり一致するとは限りません。日本人を対象とした研究でも、表情からその人の感情を正確に読み取ることは、思っているほど簡単ではないと報告されています。だからこそ、表情をひとめ見ただけで決めつけないことが大切になります。

怒りは、相手や状況に働きかけて変えようとする方向に向かいやすい感情です。一方の嫌悪は、もともと不快なものを避けて身を守る働きを持つ感情だと研究されており、向かうというより離れたくなる気持ちに近いものです。そして嫌悪が向かう先は、人とは限りません。目の前の状況や思い出した出来事など、あなた以外の何かに反応して顔をしかめていることも少なくありません。

表情だけが、手がかりではありません

相手の気持ちを読み解くヒントは、表情だけにあるわけではありません。声の調子、言葉の選び方、その後も会話を続けようとしているか、それとも話を切り上げようとしているか。そうした行動や言動にも、たくさんの手がかりが隠れています。

ひとつのサインだけで判断すると、読み違いが起こりやすくなります。表情はけわしくても言葉はいつもどおりだった、声は硬くても普通に次の話題へ移った、ということもあります。複数の手がかりを合わせて眺めると、ひとつの表情だけに振り回されにくくなります。

もし自分が、その相手だったら

確かめる前に試したいのが、相手の立場に身を置いて眺めてみることです。私たちはつい、相手があなたをじっくり観察し評価していると思い込みがちです。けれど、あなた自身が誰かと話すとき、その人のひとつひとつの仕草を、そこまで細かくチェックしているでしょうか?

人は思いのほか、自分の用事や心配ごとに気を取られているものです。表情が曇ったのも、あなたへの判定ではなく自分の中の何かへの反応だったということは少なくありません。「もし自分があの人の立場だったら、今どんなことを抱えているだろう」と想像してみるだけで、自分が原因だという思い込みは少しずつほどけていきます。

思い込みのまま動くと、かえってこじれてしまう

ここで気をつけたいのが、足りない情報を過去の経験で埋めてしまうことです。以前うまくいかなかった記憶があると、目の前の相手の表情にその記憶が重なり、「また怒らせた」と早合点しやすくなります。

そして、間違った受け止めのまま動くと、かえって事態が複雑になることがあります。たとえば、相手は怒っていないのに何度も謝り続けると、相手が戸惑い、空気がぎこちなくなってしまうこともあります。逆に、相手が少し困っているだけなのに身構えて言い返してしまうと、なかったはずの怒りを生み出してしまうこともあります。読み違いそのものよりも、そのあとの対応が、ものごとをこじらせてしまうことがあるのです。

現実のあいまいさを受け止めて、柔軟に動くために

では、どうすれば落ち着いて対応できるのでしょうか。日常で試せる方法をご紹介します。

まずは、ひと呼吸おいて「事実」と「解釈」を分けてみることです。事実は「相手の眉間にしわが寄った」まで。「怒っている」「嫌われた」は、そこに自分が加えた解釈です。切り分けるだけで、思い込みの勢いはやわらいでいきます。

次に、「ほかの説明」をいくつか思い浮かべます。「ただ疲れている」「別のことを考えていた」など、最初に浮かんだ解釈以外の可能性を並べると、それが唯一の答えではないと気づけます。

気持ちに余裕があれば、「何か気になることがありましたか」と一言たずねてみると、想像がほどけることもあります。とはいえ、面と向かって確かめるのは、多くの人にとって勇気のいることです。人と話すこと自体に強い不安や恐怖を感じる方なら、なおさらでしょう。確かめられないからといって、あなたが弱いわけではありません。わからないことを、わからないままいったん保留にしておく。それも立派な対処のひとつです。

そのうえで、もし自分の言葉や態度が相手を困らせていたとはっきり分かったときは、その事実を落ち着いて受け止めましょう。何が気にさわったのかが見えたら、その点に絞って誠実に向き合うことが大切です。必要以上に自分を責めて謝り続ける必要も、身構えて言い返す必要もありません。

ひとりで抱えこまず、相談できる場所を

こうした受け止め方や対応は、頭で分かっていても、その場ですぐに実行するのは簡単ではありません。長く染みついた考え方のクセは、自分一人で見つめ直すのが難しいものです。

目指すのは、ひとつの解釈に飲み込まれず、答えがはっきりしないときも、そのままで落ち着いていられるようになることです。

当センターでは、公認心理師による認知行動療法を中心に、相手の気持ちを決めつけてしまうクセや、とっさの対応のしかたを一緒に見直していくお手伝いをしています。「人の顔色が気になって疲れてしまう」「自分のことを話すのが苦手」という方にも、心理師がゆっくりペースを合わせていきます。自分で気づきを書きとめるセルフケアも大切ですが、自己流だけで抱えこまず、心理師やカウンセラーと一緒に取り組むことで、より無理なく続けられます。初回のカウンセリングは無料でお受けいただけます。

おわりに

相手の険しい表情や言葉が、怒りなのか嫌悪なのか、そして本当に自分に向けられたものなのか。落ち着いて見つめ直すと、その答えは思っていたよりずっとあいまいです。

すべてを正しく読み取る必要はありません。決めつける前にひと呼吸おき、必要なら確かめてから動く。その小さな習慣が、自分を責めすぎることも、相手とこじれることも、少しずつ減らしてくれます。

引用元・参考文献


  1. うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)|厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
  2. 対人葛藤における敵意帰属バイアス|東北学院大学学術機関リポジトリ
    https://tohoku-gakuin.repo.nii.ac.jp/records/2000259

監修者

原井 宏明

原井クリニック院長 / ここケアセンター 顧問医

医師、精神保健指定医、精神科専門医・指導医(日本精神神経学会認定)、専門行動療法士(日本認知・行動療法学会認定)、認知行動療法師(日本認知・行動療法学会認定)、認知行動療法スーパーバイザー、認定動機づけ面接トレーナー(MINT認定)

プロフィール
原井クリニックHP


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