「同期が先に昇進した」「友人のSNSが楽しそうでうらやましい」。そんなモヤモヤが、気づけばイライラに変わっていた、という経験はありませんか?
妬みの感情は、誰にでも起こる自然な心の反応です。けれども、うまく扱えないまま過ごしていると、怒りとなって自分を苦しめたり、人間関係に影響を与えたりすることがあります。
この記事では、妬みが怒りへと変わるメカニズムと、日常で取り入れやすい対処法をご紹介します。
妬みは「心のサイン」。悪い感情ではありません
妬みはなぜ生まれるのか
妬みとは、自分と似た立場の人が自分にないものを持っているときに感じる、つらい感情のことです。心理学では、妬みは「社会的比較」、つまり自分と周囲の人を比べることによって引き起こされると考えられています。人は無意識のうちに周囲と自分を比べており、相手のほうが優位だと感じたときに妬みが生じやすくなるとされています。
妬みやすい状況とは
妬みが生じやすい状況には、いくつかの特徴があるといわれています。まず、相手が自分と近い存在であることです。関わりのない有名人よりも、同期や同年代の知人のほうが妬みを感じやすいとされています。また、自分が大切にしている領域で差がつくと、妬みは強まりやすくなります。
さらに、自信を失っているときやストレスが溜まっているときは、妬みの感情を抱きやすくなる傾向があります。心身が疲れていると、ものごとを柔軟にとらえる力が低下しやすくなるため、つい「あの人ばかり恵まれている」「自分は何をやってもダメだ」という考えにとらわれやすくなるのです。
こうした妬みの感情が繰り返されると、「自分にはもう何も変えられない」という無力感や絶望感へとつながることがあります。実際に、職場での人間関係にまつわるストレスは広く見られるものです。厚生労働省の「令和6年労働安全衛生調査」によると、仕事や職業生活に強いストレスを感じている労働者は68.3%にのぼり、その要因のひとつである「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」は26.1%を占めています。こうしたストレスが積み重なると、心の不調が深まり、休職や離職に至るケースも見られます。同調査では、メンタルヘルスの不調により1か月以上休業または退職した労働者がいた事業所は12.8%と報告されています。
妬みが怒りに変わるメカニズム
妬みが怒りに変わるとき
妬みを感じたとき、その感情がそのまま消えるわけではありません。多くの場合、妬みは次第に怒りへと形を変えていくことがあります。妬みの裏側には、「自分は認められていない」という悲しみや、「取り残されてしまう」という不安が隠れていることが多いようです。こうしたつらい気持ちを抱えきれなくなったとき、心は怒りという形でそれを外に出そうとする場合があるのです。
たとえば、同期が評価されたことに対して妬みを感じたとしましょう。最初は「うらやましいな」という気持ちだったのに、いつの間にか「上司の評価はおかしい」「あの人は要領がいいだけだ」と怒りへとすり替わっていく。こうした変化は珍しくありません。
考え方のクセが怒りを強くする
妬みが怒りに変わりやすいかどうかには、その人の「考え方のクセ」が関わっている場合があります。認知行動療法では、このような考え方のクセを「認知の偏り」と呼んでいます。当センターが提供する認知行動療法でも、こうした偏ったものの見方やとらえ方のクセに注目し、より柔軟な考え方ができるようになることを支援しています。
たとえば、「白黒思考」と呼ばれるパターンがあります。これは、ものごとを「うまくいっている」か「完全に失敗」かの二択でとらえてしまう傾向のことです。同期が昇進したという事実を、「自分は負けた」と感じてしまう背景には、この白黒思考が影響していることがあるかもしれません。
また、「すべき思考」も妬みと怒りに関わりやすいパターンです。「努力した人が報われるべきだ」「自分だってもっと評価されるべきだ」と考えていると、そのとおりにならなかったときに、怒りにつながりやすくなる場合があります。
こうした考え方のクセは無意識のうちに身についているため、自分では気づきにくいものです。しかし、クセの存在を知ることが、感情に振り回されにくくなる第一歩になるかもしれません。
妬みと怒りに振り回されないための対処法
まずは感情に「名前」をつけてみる
妬みや怒りに飲み込まれそうになったとき、まず試してほしいのが「感情のラベリング」です。これは、今の自分の気持ちに名前をつけるというシンプルな取り組みです。
「今、自分は妬みを感じている」「この怒りの裏には、認められたいという気持ちがある」と言葉にしてみましょう。心の中でつぶやくだけでも構いません。
感情に名前をつけることで、感情と自分との間に少し距離が生まれやすくなります。「妬んでいる自分はダメだ」と責めるのではなく、「今そういう気持ちがあるんだな」と観察する姿勢をとれるようになるかもしれません。この「観察する姿勢」は、感情との付き合い方において大切なステップだといわれています。
なお、こうした感情との付き合い方をもっとしっかり学びたい方には、当センターのリワークプログラムで実施している「感情調節訓練」がおすすめです。圧倒される感情に振り回されず付き合っていく方法を、講義とグループワークを通じて身につけていくプログラムです。
「考え方のクセ」に気づく練習をする
次に取り入れたいのが、自分の考え方のクセに気づく練習です。認知行動療法のアプローチのひとつに、「自動思考」を書き出すという方法があります。これは当センターの認知行動療法でも用いている方法で、ある出来事に対して自分がどう受け止めたかを振り返り、考え方の幅を広げていくことを目指すものです。
自動思考とは、ある場面で頭に浮かぶ瞬間的な考えやイメージのことです。妬みや怒りを感じたとき、そのきっかけとなった出来事と、そのとき浮かんだ考えを紙に書き出してみましょう。
たとえば、出来事として「同期の昇進を知った」、浮かんだ考えとして「自分はいつまでもこのままだ」、感じた気持ちとして「悔しい、怒り」のように整理します。
このように書き出すと、同じ出来事に対してどんな考えが浮かんでいたかが見えてきます。大切なのは、「正しいか間違いか」を判断することではなく、「こういう考え方をしていたんだな」と気づくことです。気づきを積み重ねていくと、自分の心のしくみが少しずつ見えてくるようになります。
「6秒ルール」で衝動をやり過ごす
怒りを感じたとき、反射的に言葉や態度に出してしまうと、後悔することが少なくありません。アンガーマネジメントの分野では、怒りを感じてから6秒待つことで衝動的な行動に移しにくくなるという「6秒ルール」が実践的なテクニックとして広く使われています。怒りを感じた瞬間に深呼吸をする、頭の中で数を数えるなどして少しの間をおくだけでも、冷静さを取り戻しやすくなるかもしれません。ただし感じ方には個人差がありますので、あくまで目安として取り入れてみてください。
比較の対象を「過去の自分」に変える
妬みが生まれる大きな原因のひとつは、他者との比較です。SNSの普及により、無意識のうちに比較の機会が増えています。比較をゼロにすることは難しいかもしれませんが、比較の対象を「他の人」から「過去の自分」に少しずつ変えていくことはできます。「半年前と比べて、できるようになったことはあるだろうか」と、自分自身の変化に目を向けてみましょう。小さな進歩を認めることが、自信の回復につながる場合があります。
一人で抱え込まず、専門家と一緒に取り組むという選択
妬みや怒りの感情に長く苦しんでいる場合、セルフケアだけで対処しようとすると、かえって自分を追い詰めてしまうこともあります。とくに「考え方のクセ」は長年かけて身についたものであるため、一人で変えていくのは簡単ではありません。
こうした感情の問題は、うつ病や適応反応症(適応障害)、不安症(不安障害)といった心の不調と結びついていることもあります。人間関係のストレスや業務の負担が重なると、妬みや怒りがいっそう強まり、無力感が深まって休職や離職に至るケースも見られます。「感情をコントロールできない自分が悪い」と考えるのではなく、心と体の状態も含めて見つめ直すことが大切です。
認知行動療法では、心理師と一緒に自分の考え方や行動のパターンを整理し、少しずつ柔軟なものの見方を身につけていくことを目指します。当センターでは、公認心理師が「考え方」と「行動」の両面からアプローチし、妬みや怒りの背景にある考え方のクセを見つけ、生活の中で実践しやすい対処法を一緒に考えていきます。最終的には、ご自身で感情と上手に付き合えるようになることを目指していきます。
また、復職や再就職を見据えた支援を希望される方には、当センターのリワークプログラムもご活用いただけます。感情調節訓練をはじめとしたプログラムを通じて、セルフケア力を高め、長く安定した就労を目指すことができます。
「自分はこんなことで悩んでいいのだろうか」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。けれども、妬みや怒りの感情は、生活に大きな影響を与えることがあります。つらいときは、心理師に相談してみることも自分を大切にするひとつの方法です。
当センターでは初回カウンセリングを無料でお受けいただけます。まずは「話してみる」ところから始めてみませんか。
引用元・参考文献
- 澤田匡人(2010)「妬みの発達」心理学評論, 53(1), 110-123|J-STAGE
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/53/1/53_110/_article/-char/ja - 厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_gaikyo.pdf - Lieberman, M. D. et al.(2007)“Putting Feelings Into Words: Affect Labeling Disrupts Amygdala Activity in Response to Affective Stimuli” Psychological Science, 18(5), 421-428|PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17576282/ - 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00005.html



