「仕事中、頭の中がごちゃごちゃして、何から手をつければいいか分からなくなる」「上司と話すとき、変に思われていないか気になって仕方ない」「なんとなく落ち着かない感じが、一日中続いている」
そんな経験は、あなただけではないかもしれません。
職場での悩みは、意外と人に打ち明けにくいものかもしれません。「こんなことで悩むのは自分だけ?」「メンタルが弱いのかな?」と一人で抱え込みがちな方も多いように思われます。休職中の方や、復職・再就職を目指している方にとっても、こうした悩みが頭をよぎることは少なくないかもしれません。
この記事では、仕事中に悩みをQ&A形式でご紹介します。「あるある」と感じたものがあれば、ぜひ参考にしてみてください。
Q1. 仕事が重なると頭がパンクしそうになります。マルチタスクが苦手なのは、性格の問題でしょうか?
A. 性格の問題ではなく、脳の特性によるものかもしれません。
「複数の業務を同時進行すると頭が混乱する」「優先順位をつけたいのに、何から手をつけていいか分からない」
これは多くの働く人から聞かれる悩みの一つです。
人間の脳は、複数のことを「同時に」処理するのではなく、素早く切り替えながら「順番に」処理しているといわれています。タスクが増えるほど「認知的疲労」が積み重なりやすく、不安やストレスがある状態では、短期的な情報を保持する「ワーキングメモリ」が低下しやすくなることもあるといわれています。
また、うつ病・適応反応症(適応障害)・発達障害(神経発達症)などの特性がある場合、タスク管理の難しさや思考の混乱が起きやすくなることがあります。「自分は人より頭の整理が難しい」と感じてきた方は、特性が関係している可能性も考えられます。
試してみたいこと:タスクを「見える化」して一つずつ
まず、頭の中にあるタスクをすべて紙やメモアプリに書き出してみましょう。書き出すことで、脳が「忘れないように」と使うエネルギーを和らげる助けになることがあります。
書き出したら、次のように整理してみてください。
- 今日中にやることを3つ以内に絞る
- その中から最初にやることを1つだけ決める
- そのタスクが終わるまで、他のタスクはなるべく見ない
「同時に全部やらなければ」から「一度に一つを丁寧にやる」という発想の転換が、タスク管理とうまく付き合うきっかけになるかもしれません。認知行動療法(CBT)では、こうした「取り組む順番を決めて一つずつ行動する」プロセスを、問題解決技法や行動活性化として扱うことがあります。セルフケアを試してもなかなか改善しない場合は、自分の特性や思考のクセを専門家と一緒に整理することで、より自分に合ったやり方が見えてくることがあるかもしれません。当センターでは、このような悩みもカウンセリングでご相談いただけます。
Q2. 職場で誰かと話すとき、緊張して頭が真っ白になります。どうすればいいでしょうか?
A. 緊張は自然な反応の一つとされています。「隠す」より「受け入れる」ほうが楽になることもあります。
上司に報告するとき、同僚に話しかけるとき、打ち合わせで発言するときなどは、緊張して声が震えたり、頭が真っ白になったりすることがあります。これは、脳が「重要な場面だ」と感じて交感神経が活性化された結果とも考えられており、多くの方に起こりうる生理的な反応の一つとされています。
ただ、「緊張しているのがバレたらどうしよう」と気にし始めると、そのことに意識が向きすぎて、かえって緊張が強まりやすくなることがあります。認知行動療法(CBT)の考え方では、不安を無理に抑えようとするよりも、「今、緊張している」と自分の状態に気づくことが大切とされています。
緊張と付き合うための3つのポイント
① 緊張を「認める」:「緊張しているので、うまく話せないかもしれませんが」と相手に一言伝えると、緊張を共通認識にすることで、無理に隠す必要がなくなり気持ちが楽になることがあります。
② 話す前にゆっくり一息:ゆっくりと息を吐き出すことで、体のこわばりが和らぐことがあります。
③ 「伝えたいことを一つ決める」:話す前に「今日はこれだけ伝えられればOK」と一つに絞ることで、プレッシャーが軽くなることがあります。
緊張はその場面を「大切に思っている証拠」でもあります。ゼロにしようとするより、うまく付き合う方法を少しずつ探していけると良いかもしれません。対人緊張や社交不安は、認知行動療法(CBT)が有効とされる分野の一つです。「いつも緊張してうまく話せない」とお悩みの方は、カウンセリングでご相談いただけます。
Q3. 上司に指摘されると「自分はダメだ」と落ち込んでしまいます。気持ちの切り替え方はありますか?
A. 「事実」と「解釈」を分けて考えることが、助けになることがあります。
「ここを直してください」と言われた瞬間、「自分はダメだ」「また失敗した」と気持ちが沈んでしまうなどは多くの方が経験することかもしれません。でも少し立ち止まって考えてみると、実際に起きた「事実」は「修正を求められた」というだけかもしれません。「自分はダメだ」というのは、そこに無意識に付け加えた「解釈」の一つとも考えられます。
認知行動療法(CBT)では、こうした「自動的に浮かぶ思考(自動思考)」に気づき、やわらかく見直していくことを大切にしています。たとえば、同じ「修正を求められた」という場面でも、「自分はダメだ」と受け取れば萎縮して行動しにくくなり、「より良くする機会かもしれない」と受け取れば少しずつ前に進めることがあります。
試してほしいこと:「感情を整理するメモ」
落ち込んだときに、次の3つを書き出してみてください。
- 事実:何が起きたか(「上司に○○と言われた」)
- 自動思考:頭に浮かんだ考え(「自分はダメだ」「嫌われた」)
- 別の解釈の可能性:他にどんな捉え方ができるか(「より良くするための指摘」「期待されているから言ってもらえた」など)
最初は「別の解釈」を思いつくのが難しいかもしれませんが、それでも構いません。「自分の解釈は一つではないかもしれない」と気づくだけで、感情の揺れが少し和らぐことがあります。
Q4. 職場の人間関係が怖くて、相談や報告をするのをつい後回しにしてしまいます。
A. 「完璧に伝えなければ」というプレッシャーを、少しずつ手放していけるといいかもしれません。
相談や報告を後回しにしてしまう背景には、「うまく話せなかったら恥ずかしい」「忙しそうな上司に声をかけるのが怖い」「また怒られるのではないか」といった不安があることが多いように思われます。
厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」でも、職場の人間関係は男女ともに離職理由として多く挙げられており、こうした悩みは珍しくありません。前職でつらい経験をした方であれば、なおさら怖さを感じるのは自然なことかもしれません。人間関係への不安が強く、報連相を避けてしまうパターンが続く場合、認知行動療法(CBT)では「なぜ避けてしまうのか」という思考の流れを整理し、少しずつ行動を変えていくことができることがあります。
「報連相」を少し楽にする小さなコツ
① まず「今よろしいですか?」の一言だけ:相談の内容を完璧に整理してから話しかけようとすると、ハードルが上がりやすくなります。「今少しよろしいですか?」と声をかけることだけを、まずの目標にしてみましょう。
② 結論を最初に言う:「〇〇の件で確認したいのですが」と用件を最初に伝えると、相手も聞く準備ができます。話すときの緊張への対処法は、Q2もあわせてご参照ください。
③ メール・チャットを活用する:対面での会話に強い不安を感じる場合、まずは文章で用件を伝えることから始めることも一つの方法かもしれません。ただし、メールやチャットを使い続けることで対面を避け続けるよりも、少しずつ直接話す機会を増やしていくことが、不安の軽減につながりやすいといわれています。
「うまく話せなくて当たり前」くらいの気持ちで、小さな一歩を踏み出すことが変化のきっかけになるかもしれません。
Q5. 仕事中、なんとなく落ち着かなくて、ずっとソワソワしています。これは普通ですか?
A. 「なんとなく不安」が続くときは、自分の状態に目を向けるサインかもしれません。
仕事中、特に大きな出来事がなくても、常に落ち着かない感じや、ぼんやりした不安感が続くことがあります。うつ病や適応反応症(適応障害)の方には、気分の落ち込みだけでなく、こうした「漠然とした不安感」や「常に緊張している感覚」が現れることも少なくないといわれています。こうした状態が続く場合、体や心がストレスのサインを出している可能性も考えられます。
日常でできる「不安を和らげる」ヒント
- 「今ここ」に意識を向ける:不安は多くの場合、「未来のこと」や「過去のこと」を考えるときに強くなりやすいといわれています。今自分がしていること(キーボードを打つ感触、ゆっくりした呼吸)に意識を向けてみると、少し落ち着くことがあるかもしれません。
- 不安を書き出す:頭の中でぐるぐると考え続けるよりも、紙に書き出すことで「何が不安なのか」が整理されることがあります。書いたものを見て「これはいま対処できることか?」と確認するだけでも、少し気持ちが楽になることがあります。
- 「ゆっくり動く」時間をつくる:昼休みの5分でも、スマホを置いて窓の外を眺めたり、ゆっくりお茶を飲んだりする時間が、緊張をほぐすきっかけになることがあります。
「ソワソワ感」「落ち着かなさ」が続いたり、睡眠や食事に影響が出てきたりする場合は、専門家への相談を検討してみてください。「これくらいで相談していいのかな」と思わず、早めに動くことが助けになることもあります。
悩みを一人で抱え込まないために
仕事中の悩みは「慣れれば解決する」と放置してしまいがちですが、思考パターンや不安の癖は、意識的に向き合っていかなければ変わりにくいこともあります。
認知行動療法(CBT)は、科学的な根拠に基づいた心理的アプローチであり、「考え方のクセに気づく」「行動を少しずつ変えていく」プロセスを専門家と一緒に取り組むことで、復職や再就職に向けた準備を整えたり、より安定した働き方への土台をつくる助けになることがあります。
当センターは、名古屋市を中心に復職・再就職を目指す方のメンタルケアを行うリワーク支援事業所です。公認心理師による認知行動療法を中心とした支援を行っており、うつ病・双極症・適応反応症(適応障害)・発達障害など、さまざまな特性や状況を抱える方をサポートしています。基本的には対面カウンセリングを中心としていますが、状況によっては柔軟にご相談に応じることも可能です。「まず話を聞いてほしい」という段階からでも、初回カウンセリングは無料でご利用いただけます。
引用元・参考文献
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html - 厚生労働省こころの健康科学研究事業「うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)」慶應義塾大学認知行動療法研究会編集
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf - Beck, A. T.(1979). Cognitive therapy of depression. Guilford Press.(邦訳:大野裕 監訳『うつ病の認知療法』岩崎学術出版社、1990年)


