発達障害(神経発達症)とは
発達障害の種類
近年、成人の発達障害が注目されるようになってきました。
発達障害とは、DSM-5(アメリカ精神医学会)における「神経発達症群」に含まれる障害群の総称です。例えば、「注意欠陥・多動性症(ADHD)」「自閉スペクトラム症(ASD)」「学習障害」などがあります。なお、「広汎性発達障害(PDD)」や「アスペルガー症候群」は、いずれも上記の「自閉スペクトラム症」に含まれます。
名称に関しては、「発達障がい」「発達凸凹(でこぼこ)」など、さまざまな名称で表現されることがあります。このコラムでは、一般に広く使用されている「発達障害」に統一して表記します。
発達障害の特性と、日常生活における困り事
1.ADHDの方の特性と困り事
発達障害のうち、ADHDの方のもつ特性(=特徴のようなもの)は不注意・衝動性・多動性です(APA, 2013)。多くの方が訴える困り事として、具体的には、注意が散漫になってしまい学習や仕事に集中できない、衝動的に思いつきを実行してしまう・よく考えずに自分の考えを口に出してしまう、座っているときに手足が動いてしまう・頭の中でいろいろな事を考え続けてしまう(考えの多動)、感覚の過敏などがあります。
2.ASDの方の特性と困り事
ASDの方のもつ特性(=特徴のようなもの)は、社会的なコミュニケーションの難しさ、常同行動(同じ行動を続けること)があります(APA, 2013)。具体的には、対人関係に苦手感がある、独自のこだわりがあり周囲との折り合いをつけるのに苦労する、行動や考えを続けることがやめたくてもやめられない、感覚の過敏、といった困り感として現れます。
3.学習障害の方の特性と困り事
学習障害には、書字障害、読字障害(ディスレクシア)、計算障害などがあります(APA, 2013)。知的に低くないが、字を書くことが苦手・文字を読むことが苦手・計算が苦手、といった特徴があります。特に学校での学習場面や、就労場面で困難感を感じるケースが多いようです。
4.複数の障害の併存や、症状の多様性
これらの発達障害群では、複数の障害が併存することがあります。
特性の性質や度合いは多種多様であるため、「困り事」の現れ方は個人によって異なります。すなわち、同じ診断名の方がお二人おられたとしても、困り事の内容は個人により異なるということです。
発達障害と診断される人の割合
児童における発達障害
発達障害と診断される児童はASDでは約1%、ADHDでは約5%程度、学習障害は5−15%とされています(APA, 2013)。この数字から、発達障害は決して珍しくないことがわかります。
成人における発達障害
では、成人ではどのような状況でしょうか?
発達障害の特性の中には、成長に伴い低減しやすいものもあります。あるいは、成長過程で、困り事に対するその方なりの対処方法を編み出したり、自分に合った環境を見つけて働く方もいます。この場合、特性はあってもそれほど困り感を感じなくなります。このような理由から、児童期と比較すると、発達障害と診断される方は減少すると考えられます。
一方で、成人期のASDの方は1%程度、ADHDの方は2〜2.5%程存在すると言われています(APA, 2013; 内山・大西・中村、2012)。さらに、発達障害の診断が付くほどはっきりとした症状はないものの、特性の傾向を持っている、いわゆる「グレーゾーン」の方もいらっしゃいます。こうした方々が、社会で働くとき、発達特性による困難感を感じる場合も多いのです。
加えて、特性に伴う社会での生きづらさの経験や、失敗経験を重ねた結果、抑うつ症状を発症される方もおられます。発達障害の方に多くみられる併存疾患には、うつ病、物質使用障害、不安障害(不安症)、強迫性障害、摂食障害などがあります(Sobanski et al., 2007; Levy, Mandell, & Schultz, 2009)。
発達障害の生物学的メカニズム
発達障害は脳の仕組みによる特徴です。
したがって、「不注意」や「コミュニケーションが苦手」などの特徴は、その方のやる気がないとか、怠けているためではなく、脳の機能による特徴なのです。
こうした仕組みを理解した上で、解決策を探っていく必要があります。
発達障害の支援の現状
発達障害の児童に対する支援の状況
発達障害は比較的新しい概念です。
児童への支援は、日本では2000年代から浸透してきました。支援は、学校の特別支援教室や通級があります。療育施設や病院では、対象児童がどのような特性をもつか調べるアセスメント、各自の特性に合わせた生活・コミュニケーション・学習方法を支援する療育、応用行動分析、感覚統合療法、親御さんへの子育て支援などが、専門家により提供されています。
発達障害の成人に対する支援の状況
一方成人においては、医療福祉現場の理解は進みつつありますが、社会的に十分理解されているとはいえない状況です。
成人の発達障害の方の支援において、課題が複雑になる要因の一つは、学校場面と異なり、就労現場の状況が一定でないことです。
また、社会で求められるスキルが、発達障害の方の苦手な部分と重なるという点も、困難を生みやすくしています。社会で生活したり働く上では、コミュニケーションスキルや柔軟性が重視されやすく、さらにマルチタスクやスケジュール管理、予測不可能な事態への対応を求められる職場も多く存在します。したがって、「学校時代は勉強ができたので、得に困難を感じなかったが、社会人になってから困り感を自覚した」という方もおられます。
成人の発達障害の方、あるいは発達障害の傾向を持つ方への、就労を見据えた支援においては、社会的なニーズをふまえつつ、個々人の特性に合わせた対応を進めていく必要があると考えられます。
成人の発達障害の方に対する心理支援・就労支援
では、成人の発達障害の方・グレーゾーンの方への支援を進めるとき、具体的にはどのような方法があるのでしょうか?
ヒントとなるのは、1.心理支援技術、2.得意な面と不得意な面の理解、3.他の発達障害・発達障害傾向の方の工夫です。
以下で順にみていきます。
1.心理支援技術
心理支援技術を用いて、以下のような支援が考えられます。
- 応用行動分析:行動の原理を利用した支援
- 認知行動療法:考え方の癖や、「わかっているけどできない」といった困り事について考える方法です。客観的なデータをあつめるモニタリング、コミュニケーションスキル向上のためのSSTやアサーショントレーニング、リラクセーション、アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)などの方法があります。
- 認知機能・実行機能のトレーニング
- 感覚統合理論を用いた支援
2.得意な面と不得意な面の理解
心理検査や職業適性検査といったアセスメントを通して、その方の得意な面と苦手な面を明らかにします。ご自身の得意な面・苦手な面に関する情報が明らかになると、得意が活きる職業や職場とのマッチング、苦手を得意でどのように補うかといった補填戦略の検討などが可能になります。
また、その方に必要なスキルを選択的にトレーニングするといった、効率的な支援が可能になります。
心理検査などのアセスメントにより、ご自身では気づかなかった点が明らかになる事もあります。このことから、客観的視点で、その方の良いところを引き出すような履歴書の支援や、面接対策といった就活支援を行うことも可能になります。
3.他の発達障害・発達障害傾向の方の工夫を参考にする
発達障害による困り感を感じている方同士で、困り事や解決策について話し合います。異なる点もありますが、共通点も発見できます。また解決方法を導き出す思考方法や、便利な工夫など、お互いに参考になる情報を交換できるというメリットがあります。
支援の場では、困り感を自由に話しあうグループ療法を通して、同じ悩みを持つ方と情報を交換したり、悩みの共有が可能になります。
あいち保健管理センター(/あいち就労支援センター)では、心理学的な専門知識を有する支援員による心理支援、心理検査、職業適性検査を行っています。プログラムのグループ療法では、利用者様同士が、解決策や困り事の要因を一緒に話し合うことで、新しい気づきが生まれやすくなります。
同じ悩みを持つ仲間や知識を持つ専門家の力を、上手に活用することで、よりよい生活を送っていただけることを願います。
【参考文献】
American Psychiatric Association. (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders (DSM-5®). American Psychiatric Pub.
Levy, S., & Mandell, D. Schultz, r.(2009). Autism.[review]. Lancet, 374(9701), 1627-1638.
Sobanski, E., Brüggemann, D., Alm, B., Kern, S., Deschner, M., Schubert, T., … & Rietschel, M. (2007). Psychiatric comorbidity and functional impairment in a clinically referred sample of adults with attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD). European archives of psychiatry and clinical neuroscience, 257(7), 371-377.
内山敏, 大西将史, & 中村和彦. (2012). 日本における成人期 ADHD の疫学調査: 成人期 ADHD の有病率について. 子どものこころと脳の発達, 3(1), 34-42.