あいち保健管理センター

Columnコラム

ひきこもり

ひきこもり

61.3万人

この数字が何を意味しているかご存知でしょうか?
内閣府が平成30年度に実施した「生活状況に関する調査」の結果から得られた、40歳〜64歳のひきこもり状態となっていると推定される方々の数字です。

ちなみに「ひきこもり」と言われて真っ先に浮かぶであろう若者層、15歳〜39歳までの方を対象にした平成27年度の調査では54.1万人という結果が得られています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html

数字からもわかるように、今や引きこもりは限られた年齢層だけの問題ではなく幅広い年代にわたって起こっている状況であると考えられています。
また、若い世代からのひきこもりの長期化も大きな問題として考えられています。

ひきこもりとは

ひきこもりとは疾患や病気の名前ではありません。

「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念」

と定義されており、いわゆる状態を指す言葉になります。
前述したように、ひきこもりの状態が長期化すればするほど社会復帰へのハードルも高くなることが考えられます。

ひきこもりへの支援

厚生労働省は平成21年度から「ひきこもり対策推進事業」を創設し、ひきこもり対策の一層の充実に取り組んでいます

  1. ひきこもり地域支援センター設置運営事業(平成21年度~)
  2. ひきこもり支援に携わる人材の養成研修・ひきこもりサポート事業(平成25年度~)

ひきこもり支援センターは平成31年4月には全ての都道府県に設置されるまでに至っています。相談件数も年々増加しており、地域に根付いた支援の必要性の声が挙げられているかと思います。
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/000554777.pdf

詳細な支援の概念に対しては省略させていただきますが、ひきこもり支援としては

  • ひきこもり本人の状況を理解し、丁寧に寄り添う支援をしていくこと
  • 当人、または家族と地域との連携を図ること

などが挙げられます。
ひきこもりとなった原因は様々でも、ひきこもり状態である本人は地域や社会との関係が希薄であり、対人関係の不安や将来への不安など複雑な心境を抱えたまま日々を過ごしている状態であり、そのことを踏まえた上での当人や家族への支援が必要となるでしょう。

ひきこもりへのC R A F T

では実際にどういった支援が必要なのでしょうか?実はひきこもり支援、当の本人への直接のアプローチが難しいためまずは実現可能性の高い家族へのアプローチが優先となります。
それが「C R A F T」です。
C R A F Tはアメリカで開発された治療プログラムで、元々は物質依存症へのアプローチとして発展しておりました。
このC R A F Tが引きこもり支援においても活用され、科学的に効果の認められている方法となっています。
C R A F Tでは認知行動療法の技法を応用しており、厚生労働省の引きこもりの家族支援のガイドラインにも取り上げられています。全体のプログラムを通して引きこもりのメカニズムやコミュニケーションの取り方、問題解決の方法などを学び、家族関係の改善を促しながら社会への連携を図っていく方法になります。

ひきこもりのメカニズム

ひきこもりの方はなぜ、6ヶ月(定義)も外出をしない状態を継続できるのでしょうか?
私たちは通常、楽しいことも辛いことも経験していきます。
人間は楽しい出来事があればその出来事をまた体験できるよう活動が多くなり(例:賞賛を得るために仕事を頑張る、楽しみのために友人と遊びに出かける)、反対に辛い体験はしないように活動を低下させます(例:怒りっぽい上司を避ける、嫌いな食べ物を食べない)。こういった行動は通常のものであり、どちらだけあればいいというものでもありません。どちらもあってこその人生であると考えられています。
しかし、ひきこもりの状態となっている方は辛い状況、またそこから生じる否定的感情を避けている状態だといえます。楽しさを感じているわけではありません。社会や地域へ出たときに嫌なことが多すぎるのです。
ある程度エネルギーがある方であれば、そういった嫌な出来事を「頑張って乗り越えよう」とすることができます。しかし、ひきこもりの方は度重なる失敗や長期にわたるひきこもりのために、乗り越えるための自信も体力もない状態にあります。
そしてまたひきこもりの状態を続ける、というループになっているのがひきこもりのメカニズムになっています。

その状態であることを理解しないまま「あなたならできる」や「頑張って乗り越える」ことだけを求めてしまうと本人のやる気を引き出せず関係を悪化させてしまいます。
まずはできることの体験、いわゆる楽しいことや肯定的感情を体験することからスタートさせることが支援の足がかりになります。

「できることを重ねていく」ことが今後社会に出ていく上での一歩になります。

C R A F T

支援のセッションは全8回あります。この8回を通して、家族関係の改善と問題解決を図っていきます。
ご家族の方もこれまでも悩まれ、後悔されてきた方も多いかと思われます。

「自分の育て方が悪かったのではないか」
「こうなってしまったのは〇〇のせいだ」

嫌な言葉が頭をよぎってしまうこともあるかもしれません。

C R A F Tは犯人探しをする方法ではありません。
嫌な結果となるメカニズムやそれを維持してしまっている部分を客観的に観察し、改善していくためのアプローチです。
今までは今まで、C R A F Tでは当人はもちろん、家族の生活に少しでも希望が持てるよう寄り添うための支援です

 

https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/s0_2.html

参考資料
境泉洋・野中俊介(2013) CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック 若者がやる気になるために家族ができること 金剛出版


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